・出典:食品・薬品安全性研究ニュース
http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzensei.html
・肺感染症および免疫機能に対するディーゼル排気粒子の作用
これまでの疫学的調査の結果から, 呼吸機能の低下した患者では, 大気中の浮遊微粒子量増大が呼吸器疾患による死亡率および罹患率上昇と関連し, 喘息や肺炎等による入院または外来患者数が増加することが明らかとなっている.
直径 2 μm 未満のディーゼル排気粒子 (DEP) は, 産業国の大都市における大気汚染物質の主要な構成成分である.
この微粒子は長時間大気中に残存し, 肺の深部まで侵入して肺に障害を起こす.
DEP が免疫系に影響を与えることを示す報告は多数あり, DEP がアジュバント様作用を示し, 抗原刺激による免疫グロブリンE産生を増加することが報告されている.
他方, DEP が宿主の免疫系を抑制するであろうという報告もある.
動物を DEP に曝露した初期の研究では, 粘膜線毛クリアランスの抑制, 細菌感染に対するインターフェロン産生の抑制, さらにインフルエンザ菌の肺における増殖の促進が報告されている.
また, in vivo および in vitro で肺胞マクロファージ (AM) を DEP に曝露した研究では, リポポリサッカロイド (LPS) 刺激による TNF-αおよびインターロイキン-1産生の抑制が認められている. AM は肺の防御システムにおいて先陣を務め, 外部からの異物粒子や微生物を肺深部から取り除き, 肺の無菌性を保つ.
AM に貪食された微生物や微粒子は粘膜線毛エスカレータ系やリンパ系への移行により, 肺より排除される. DEP は曝露後に肺リンパ節で認められるが, このように移行した粒子が宿主の免疫系に影響を与えるものと考えられる. 本報告ではラットのリステリア菌肺感染モデルを用い, DEP による免疫抑制作用におけるマクロファージの役割について検討を行った.
DEP の投与は米国 National Institute of Standards and Technology より購入した直径約 0.5 μm の標品をオートクレーヴ滅菌し, 生理食塩液に懸濁して, 雄 SD ラットに 5 mg/kg を気管内に投与した.
DEP 投与より3日後に気管内にリステリア菌約5,000を気管内投与し, それから3, 5および7日後に動物を屠殺し, 肺左葉中の生存菌数を計測した.
右の肺葉は PBS を用いて肺胞洗浄を行い, 洗浄液中の細胞数を計測し, さらに, ザイモザン刺激による活性酸素産生能について調べた.
また, 洗浄液より得たマクロファージを培養し, その上清中の TNF-αおよび一酸化窒素 (NO) 量を測定した. リステリア菌接種より7日後には, 肺門リンパ節を摘出してリンパ球の分類を行った.
DEP 曝露は肺からのリステリア菌クリアランスを低下したが, 対照として用いたカーボンブラック (CB) では, このような影響は認められなかった.
また, リステリア菌接種により誘発した AM からの NO 産生は, 接種から3, 5および7日後の DEP 曝露群で消失した.
対照的に, CB 曝露動物では接種3日目の AM からの NO 産生に影響は認められなかった.
DEP および CB 曝露動物の肺リンパ節では免疫マーカーである CD4+ と CD8+ のT細胞の数と割合が増加した.
これらの結果は, リステリア菌に対する AM の抗細菌性の活性酸素産生能を DEP が低下することを示し, ラットが肺感染症にかかりやすくなることに関与するものと考えられる.
また, CB 投与動物で AM の機能障害およびリステリア菌クリアランスの低下が認められなかったことから, 上述の DEP の作用は部分的に DEP のカーボン核に吸着している化学物質が関与するものと考えられた.
Environmental Health Perspectives 109(5) : 515-521 (2001)
Yang H-M1, Antonini JM1, Barger MW1, Butterworth L1, Roberts JR1, Ma JKH2, Castranova V1, Ma JYC1
(1国立労働衛生研究所 健康研究室, 2ウエストバージニア大学薬学部, Morgantown, WV, USA)