・出典:食品・薬品安全性研究ニュース
http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzensei.html
・オフィス環境におけるビルディング病:疫学的調査と環境アセスメント
「ビルディング病」《building sickness syndrome,略 BSS:日本ではシックビルあるいはシックハウス症候群と言われているが,建物の病気ではなく,建物に起因する病気であるからその呼び方はおかしい.》は上部気道のかぜに似た症状を主とし,頭痛・眼の炎症・無気力などを伴う.
BSS の原因の研究が行われ,自然換気の建物より空調されたビルで発生が多く,換気の不十分な所で作業する労働者にも BSS に相当する異常が生じていることが分かっている.
オフィスの労働環境に関する研究は以前より広く行われているが,これらの報告の殆どは劣悪なオフィス環境に焦点を当てた調査である.
近代的なオフィス環境においては BSS の罹患率は低いと推察されるが,疫学的検討が必要である.本研究ではオフィスにおける,浮遊微粒子量,湿度,室温,照度,騒音量など各種環境状態の測定指標と BSS の罹患率症状との関連性をクラスター分析による統計学的な手法を用いて調べた.
調査対象として選んだビルは5つで,そのうち3つ (A,B,C) は近代的な空調設備によってオフィス環境が制御され,他の一つ (D) は自然換気によって空気置換量が制御され,さらに他の一つ (E) は換気装置はあるが温度調節が悪く,環境を局所的に人手で調整しなければならない「シックビル」である.各ビルで就労している被験者全1,000人に対してアンケート調査を実施した.調査報告をもとにそれぞれのビルにおいて,症状の報告頻度の高いエリアと低いエリアに対して詳細な環境状態の比較および統計的解析を追加した.
最新の空調設備を有しメンテナンスが行き届いたビル A,B においては,自然換気のビル D と比較して咽喉の乾燥感と頭痛を除く全ての BSS 症状の罹患率が低く抑えられ,さらに,環境分析結果も優れた値を示した.
しかし,ビル C は最新設備空調を行っているが,症状の報告が多く,環境評価は良好だったものの,温度が高めで湿度は低めであった.
二酸化炭素濃度が高く,換気が不十分と考えられた.
症状との関連が疑われる環境因子はビル毎に異なったが,浮遊微粒子と症状発生には共通して関連が認められた.
また低周波数騒音にも症状との関連が認められた.
本報告では,揮発性有機化合物,陽イオン,陰イオン,一酸化炭素濃度,ホルムアルデヒド濃度および照度は BSS 症状との相関性が低いが,微粒子と騒音の二つの環境因子は BSS 症状と相関が有るという知見が得られている.微粒子は1変数解析において全ての症状との間に強い相関があり,多変量回帰分析においても多くの症状 (眼の痒み,咽喉の乾燥感,頭痛および眠気) との相関が認められた.
低周波騒音は曝露量が症状 (鼻詰まり,眼の痒み,乾燥肌) と直接的に関連していた.
実験的に,低周波騒音の曝露で刺激性亢進や満足感の低下が起こることが知られている.
最近の他の研究でも騒音レベルの低下が,被験者の症状の改善と労働生産性の向上をもたらすことが報告されている.
さらに検討の余地があるとは考えられるが,オフィス環境における微粒子と低周波騒音がヒトに与える影響については特に注意を払うことが大事であるとしている.