・出典:食品・薬品安全性研究ニュース
http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzen_news/13.html#6
第13号
・「卵胞ホルモン作用を有する DDT」
DDT は,いわゆる第3世界に属するいくつかの国で良く利用されている殺虫剤であるが,これらの国では土壌,水,食物等環境が汚染され,野性動物の生存のみならず,人の健康へも影響を及ぼす可能性があることから,哺乳類に対する DDT の毒性を調べることは極めて重要である.
DDT の構造異性体である o,p'-DDT は原形質-核エストロジェン受容体との相互作用を介してエストロジェン様活性を示すことが明らかにされており,また,毒性の少ない理由から最も広く用いられている他の異性体 p,p'-DDT もラットの子宮に対しエストロジェン作用を示すことが報告されている.
一方,エストロジェンの作用は多様であり,子宮の様々な細胞の原形質-核受容体を介するホルモン作用により子宮の RNA および蛋白質合成を促進して子宮筋を肥大させる (genomic作用) ほか,好酸球のエストロジェン受容体を介して血管透過性を亢進させ,子宮の浮腫あるいは好酸球の遊走を促進させる作用あるいは好酸球の脱顆粒を引き起こす (non-genomic 作用) が知られている.
したがってDDT のエストロジェン作用を調べる場合にも様々なエストロジェン受容体を介した本来のホルモン作用とは無関係の作用についても別個に考察する必要があり,今回,著者らは p,p'-DDT をラットに投与し,その作用を genomic 作用および nongenomic 作用の両面からエストラジオール-17βと比較しながら検討した.
その結果,p,p'-DDT は,エストラジオール-17βと同様に子宮筋を肥大させる作用を持ち,さらに子宮内膜浮腫を起こし,好酸球の脱顆粒を起こしたことから DDT の異性体はgenomic および nongenomic のエストロジェン作用をいずれも有していることが確認され,野性動物あるいは人の生殖機能に影響を及ぼす可能性が示唆された.
また,DDT は免疫細胞である好酸球に作用することが明らかとなったことから,気管支喘息のような免疫系の疾患に関わる作用を持っている可能性もあり,好酸球の子宮以外での働きに対する DDTの作用について検討することも必要かもしれない.