・「医師の警告を無視」責任感欠如で被害拡大~『茶のしずく』問題検証(5)
2011年9月 7日 15:30
今回の連載記事では、『茶のしずく』石けんによる小麦アレルギー患者を初めて発見した福冨医師に話を聞き、『茶のしずく』による小麦アレルギーと通常の小麦アレルギーの違いなど、被害者や化粧品業界の関係者から疑問があがっていたことを解説してきた。
既報(2)では、福冨医師が初めて『茶のしずく』患者を診てから、1年かけて石けんとの因果関係を特定した経緯を紹介したが、悠香は自主回収発表前にも、不誠実な対応を繰り返してきたことがわかってきた。
ここで悠香が自主回収に至るまでの経過を、時系列で振り返ってみる。
<医師の警告を無視>
福冨医師が初めて『茶のしずく』患者を診察したのは2008年末のこと。
その後、検査や臨床研究を繰り返し、1年後に小麦アレルギー症状の原因が『茶のしずく』に含まれる「加水分解コムギ末」だと強く疑うに至った。
福冨医師は原因成分を分析するために、悠香に直接連絡をして成分や詳細データなどの提出を求めた。
ここで悠香は、福冨医師の申し入れを断っている。
再三の要請により、ようやく悠香が福冨医師と面会したのは、2010年3月のことだった。
福冨医師は悠香との面会で、「加水分解コムギ末が原因であることがかなり疑わしいので、製品から加水分解コムギ末を抜くか、少なくとも加水分解コムギ末の分子量を小さくすべき(分子量を小さくするとアレルゲン性が低下する)」とアドバイスし、成分の提出を求めた。
しかし、悠香は成分の提出については受け入れたが、成分の変更に関しては即座に対応する必要はないと判断した。この後、数人の医師が悠香と接触し同様のアドバイスをしてきた。
そのためか悠香は、2010年9月頃加水分解コムギ末の成分をより分子量が小さいものに変更するなどの対応をしていたが、この事実は消費者には知らされていなかった。
その後、多施設から20例以上の多数の症例が厚生労働省に報告されたことを受けて、厚労省は2010年10月15日、悠香に対して情報提供を実施した。
国から対応を迫られた悠香は、ホームページで注意喚起を発表し、『茶のしずく』の使用者にダイレクトメールを送った。
福冨医師は2010年11月、既報のと論文を米国アレルギー臨床免疫学誌に発表した。
その後、悠香は2010年12月8日、加水分解コムギ末から「加水分解シルク液」に成分を変更し、『茶のしずく』をリニューアルした。
そして2011年5月20日、日本アレルギー学会(2011年5月14日・15日開催)で茶のしずくによる小麦の運動誘発性アナフィラキシーに関する症例報告が多数発表されたことを受け、悠香は自主回収を開始したのだ。
<責任感の欠如により被害拡大>
こう振り返ってみると、福冨医師が悠香と面会した2010年3月、厚労省の情報提供を受けた2010年10月、福冨医師が論文を発表した2010年11月など、悠香が自主回収を決断するタイミングは何度もあった。
繰り返すが悠香は「その時点で得られた医学的知見に基づき、最適と考えられる判断をしてきた」としているが、厚生労働省の注意喚起を受けた2010年10月から自主回収に至るまで、半年以上経過している。
「愛される会社」であれば、福冨医師らが警告した2010年3月に何らかの対応をすべきだった。
ただ、初期の時点では、前例がない症状であったことから、医師らの警告に対し、確信が得られなかったことは仕方がないことかもしれない。
しかし、最低でも厚労省の注意喚起後には、自主回収を決断すべきだった。厚労省の注意喚起からの半年間で、どれだけの人がアレルギー症状を発症したのか、またはすぐに対応をしていれば、どれだけの被害者を救えたのだろうか。
悠香の対応は「最適の判断」とはほど遠い。
「患者を救うのが医師の仕事」という信念のもと、福冨医師ら専門医たちの尽力により、『茶のしずく』による新しい病気が発見され、真相が解明されつつある。
だが本来、メーカーが蒔いた種は、メーカーが刈り取らなければならない。
今回の事態は、原因究明から臨床研究まで、メーカーである悠香が実施すべきことでもある。
それを医師たちの信念に基づく善意に任せ、悠香は責任を取らず、医師への協力も消極的で、問題を放置し続けて被害を拡大させた。
不誠実な対応を続けてきた悠香。
全国で立ち上がった被害者弁護団から追及を受け、法の裁きを受けることになっても、当然のことだろう。
(了)
【山本 剛資】
runより:私は悠香に何の恨みもありませんが、メーカーという物はこういう認識で物作りをしている所が多いのです。
人体への影響より利益・・・この考えでは余計に首を絞めると思います。