【トップインタビュー】ケンコーコムVS厚労省~医薬品ネット販売訴訟のゆくえ(5)
2011年9月24日 07:00
健康食品・医薬品などをインターネット販売しているケンコーコム(株)は、健康関連商品の取扱いを拡大、中国やシンガポールなど海外事業への進出に力を注いでいる。
後藤社長は、ネット通販でおよそ1兆円を超えると想定する健康関連市場のリーディングカンパニーを目指している。
一方、薬事法施行規則等の一部を改正する省令に関して提議した訴訟では、厚生労働省を相手に係争中。
医薬品をネットで販売する権利と、消費者が医薬品をネットで購入する権利を守るために徹底抗戦を貫く構えだ。
(聞き手:ヘルスケア事業部 田代 宏)
<移転はビジネス的理由から>
――福岡に事務所を移転されましたが、やはり第一の理由は震災の影響ですか。
後藤 そうですね。いわゆるリスク分散です。eコマースの世界では、必ずしも東京を拠点にしなくてもいいと以前から思っていました。九州を拠点に置く大手通販企業も多いですしね。とはいえ、東京で創業した企業ですから、ほとんどの社員の生活基盤は首都圏で、なかなか実行に移すには至りませんでした。しかし、震災後にミネラルウォーターや保存食など、弊社の取扱商品の需要が拡大した一方、計画停電などでサービス提供力が低下して大混乱になり、十分にお応えすることができませんでした。そうしたことを踏まえ、お客様のライフラインを支える立場にいながら、自社で不測の事態が起こるということはあってはならないことだと改めて強く実感しました。被災地ではまだまだ余震が続いていますし、復興には相当時間がかかるでしょう。首都圏の電力事情も先が見えませんし、原発も収束の道筋が見えないことから、いつまた不測の事態に陥るか分かりませんので早急にリスク分散しなければと思い、福岡オフィスを設置し、本社機能の一部を移管しました。
――後藤社長が九州出身というのも理由でしょうか。
後藤 そういうわけではありません。もともと弊社のメインとなる物流センターが福岡県の飯塚市にあり、リードヘルスケア様など、取引先が九州地域に多いということもあります。また、中国をはじめアジアへの展開を考えた際に最適な場所のひとつですし、「ビジネスインフラがしっかりしている」「社員も生活しやすい」など、あくまでビジネス的な理由ですね。
<ヘルスケア分野でトップ目指す>
――今、売上高はどれくらいですか。
後藤 2011年3月期で前年比5.4%増の131億円です。
――医薬品など、各カテゴリーではどれくらい比率を占めているのですか。
後藤 医薬品の売上高は11年3月期で3億5,000万円です。その前年は4億9,000万円、前々年は6億8,000万円でした。ネット販売規制の影響で、年々下がっています。健康食品の売り上げに占める割合は、約2割くらいですね。日用品やフードもそれくらいの比率ですね。
――医薬品以外の部門で業績を伸ばしているわけですね。
後藤 そうですね。規制が無ければ医薬品カテゴリーの売上も年間10億円は超えていたと思います。
――海外にも積極的に展開されていると聞きますが。
後藤 子会社がシンガポールとアメリカにあります。シンガポールは東南アジア地域への展開拠点として、アメリカは時差を利用した日本の顧客向けカスタマーサポートのほか、商品開拓などを行なっています。また、中国ではLBX Pharmacy Chain Co.Ltd. (老百姓大?房??股?有限公司)とジョイントベンチャー事業として、杭州に合弁企業を設立し、国内の健康関連商品をLBX へ店舗販売する卸売りとeコマース事業を展開準備を進めることで、6月に合意文書に調印しました。
――LBX社はどれくらいの規模の会社なのですか。
後藤 年間10数億円の売上規模で中国最大のドラッグストア企業です。中国全土に店舗があります。
――中国は原発の影響で日本の健康食品などの商材が入りにくくなっていると聞きますが。
後藤 もちろん逆風はありますけど、やはり日本産の商品についての安全性の信頼や評価は高いです。大きなダメージはないですね。
――商品購入における決済は中国側になるのでしょうか。また、他の企業が御社のeコマース を通じて販売することはできますか?
後藤 決済は中国で、販売形態は輸出して頂く形になりますね。シンガポールでも同じです。
――具体的な手続きはどのような方法ですか。また販売はネットだけですか
後藤 まずは合弁会社とライセンス取得や通関手続きなどを含め、輸出するかを打ち合わせしてからになります。販売はネットと店舗販売で展開する予定です。
――今後の見通しと抱負について教えてください。
後藤 日本国内の健康関連の流通市場は、10兆円くらいだと思っています。そのうちネットの流通規模は現在はまだ2~3%しかありませんが、今後ネット販売は少なくとも1割以上のマーケットになると想定しています。そのなかで、リーディングカンパニーとしてしっかりやっていこうと思います。日本のマーケットが成熟して伸び悩んでいる一方で、アジアは急激に成長しています。早い段階から海外企業とのルール作りをして、日本の高品質で安全な商品を積極的に紹介し、多くの商品を流通させられるようにしたいですね。
――ありがとうございました。
(了)
(文・構成:小山 仁)