(5)メチル水銀の曝露指標
食品中に含まれるメチル水銀は、消化管から高率(95-100%)に吸収される。蒸気となったメチル水銀は、肺から吸収される。
この吸収率も80%程度である。
皮膚からも吸収されるがその吸収率は明らかでない(Berlin 1979(6))。
吸収された後のメチル水銀は、SH基に対する親和性が高いため、タンパクやシステインやグルタチオンのようなアミノ酸に結合すると考えられている(toxicology Today)。システイン-メチル水銀複合体は中性アミノ酸輸送系によって血液-脳関門を越えて脳に輸送される。
このことが、強い中枢神経系への毒性を示す理由のひとつと考えられている。
血液中では90%以上のメチル水銀は赤血球中に存在する。
毛髪が生成される時にメチル水銀が血液に対して一定の比を持って取り込まれる。
定常状態においては毛髪と血液の濃度比は250:1が代表的な値である。無機水銀の曝露がなく通常の食事を摂っている人の場合、血液においても毛髪においても無機水銀は10%以下であり、総水銀として測定される水銀の大部分はメチル水銀(もしくはメチル水銀に由来する)と考えても良い。
メチル水銀はグルタチオンに抱合され胆汁中に排泄されるので、糞便が排泄経路である。
しかし、大部分は腸管内でシステイン複合体となり再吸収される。生体内で僅かであるが無機化が起き、そのメカニズムは腸内細菌が関与する場合と活性酸素が関与する場合が考えられている。
腸管内での無機化は糞便中の排泄を促進する。
また、吸収され、体内でも無機化された水銀は主に腎臓から排泄されるが、胆汁とともに腸管に排泄されても再吸収されにくく、糞便とともに体外に排泄される。
血液と脳やその他の臓器の水銀濃度はよく相関し、血液もしくは赤血球中のメチル水銀濃度は、曝露の良い指標であると考えられている。
また、毛髪中メチル水銀濃度も血液中メチル水銀濃度と一定の濃度比であるので、曝露の良い指標となる。
実際には、メチル水銀濃度の測定は容易でないが、上述のように血液、赤血球、毛髪の水銀の殆どが、特に無機水銀曝露や(毛髪の場合)外部からの汚染がない場合には、メチル水銀であるために、総水銀の測定の結果を持ってメチル水銀曝露の指標とすることもよく行われている(Berlin 1979(6))。
実際、魚摂取が非常に少ないあるいは無いために毛髪水銀濃度が無機水銀曝露を反映していると考えられる集団において、毛髪水銀濃度は0.2~0.8μg/gの範囲だと報告されている。
したがって、この範囲より遥かに高い水銀濃度を示す魚摂取母集団では、毛髪総水銀濃度をメチル水銀曝露の指標としても、曝露量を誤まることはないと思われる(NRC(7))。
runより:グルタチオン(タチオン)が水銀まで分解するとは驚きです。
さすが解毒の万能選手!体内でも分泌される物質です。