・3.結果
(1)自閉症は水銀中毒か?
自閉症と水銀の関係が提起されたのは2001年Bernardらの論文に始まる 1)。
これによると、自閉症と水銀中毒に関連性を肯定する根拠は、自閉症の症候と水銀中毒の症候の類似性、自閉症の生化学的異常と水銀中毒にみられる生化学的異常の類似性、さらに保存剤のチメロサールが含まれる予防接種の 高頻度な使用をあげている。
これに呼応する形で米国のAutism Research Instituteという自閉症と水銀が関連するという論文を収集し、インターネット上で公開している団体が、( http://www.autism.com/ari/ )。 翌2002年、Kiddが合計274編の論文を引用した長大なレビューを発表した 2)、3)。
この中で水銀 と自閉症に関して言及引用されている論文は4編 1)、4)~6)あるが、いずれもAutism Research Institute関連している部分での著者によるものであった。
一方、2003年PediatricsにNelsonらがコメントを発表し、自閉症と水銀との関連、チメロサールとの関連について疑問を投げかけた 7)。
このcommentaryは明確に議論の論点を絞っているが、価値の高い論文である。「自閉症と水銀中毒の臨床症状は類似しているか?」「自閉症の発症と予防接種の時期」「水銀含有ワクチンの使用と自閉症頻度の上昇」「自閉症児・者の生物学的サンプル中の水銀濃度」「水銀汚染地域で自閉症が増加しているか?」 などの論点で、水銀と自閉症の関連性については、理論的に根拠が乏しいことを浮き彫りしている。
これに対し、2004年にBernardら 8) は、Nelsonらの批判は新たな事実や調査に基づくものではなく、自閉症と水銀の関連を否定する根拠にならないと反論している。
総合的に見て、現時点では自閉症と水銀の関係については一致した見解はみられず、これを積極的に肯定するエビデンスはないと考えられる。