・深刻な自治体の知識・経験不足
2009年8月から元県有施設で再生砕石問題が明らかになっていた埼玉県でさえ、専門家の指導を受ける2010年8月末までアスベスト建材を見分けることができなかったのである。
昨年8月の報道までこの問題を全く知らず、アスベスト建材をろくに見たこともない自治体がいきなり現場で適正な調査や指導ができるとは考えにくい。
埼玉県での混入発見率が高いのは、同県職員のアスベスト建材の判別能力がほかの自治体に比べて高いからだとみるべきだろう。
専門家による実地指導を現場事務所の担当者も含めて全員で受けたり、再生砕石の使用現場の調査を研修もかねて積極的に実施したりしている。
ここで誤解してほしくないのは、埼玉県の職員がとりわけ特殊なスキルを持っているとか、特別能力が高いというわけではないことだ。
多数の混入を見つけた8月末の調査・実地研修にしても、特別な方法では決してない。
この調査は同県環境科学国際センターの研究員3人と県職員6人のほか県内業者の3人を加えた12人で約3時間かけて実施した。同センターの渡辺洋一部長(資源循環廃棄物担当)によれば、その際の講習は「小さい砕けた建材は現物をみないと(判別が)難しいので、現場でスレート片を実際に拾ってそれを見てもらって、断面をよくみていただいて、繊維が確認できるものを見つけてほしい、と横一列に並んでかなり時間かけて探した」という単純なものである。
だが、いっけん地味にみえる作業を地道に繰り返すことが大事なのである。「落ちているものをみて判別するのは最初はなかなか難しい。実際に自分で見つけるとこういうものだとわかりやすくなるんです」と渡辺部長はその効果を説明する。
実際にそうした調査・研修を繰り返してきた埼玉県の調査結果にそれは現われていよう。
同県産業廃棄物指導課の佐藤成己副課長によれば、埼玉県の立ち入り検査も「最低2人、多くても4人で現場に行って15分とか30分くらいです。現場の状況によっては1時間ということもあります」という程度で、とりわけ多くの時間を割いているとか厳しいものではない。
市民団体にアスベスト建材の見分け方を指導したNPO「東京労働安全衛生センター」の外山尚紀測定士も「何の準備もなくいきなり現場でみたら(アスベスト建材の判別は)難しいですが、きちんと見分け方を教えてもらって注意して見れば、ある程度の慣れは必要ですがそれほど難しいものではありません」と話す。
外山氏らはさいたま市の再生砕石敷設現場で実際に市民にアスベスト建材を見つけてもらうというイベントを2010年11月に実施した。
そこで指導を受けた市民は個人差はあるものの、数十分もすればある程度の見分けがつくようになっていた。
筆者の経験からも、たしかに慣れは必要だが判別はそれほど難しいものではない。
問題は多くの自治体がその程度の準備すらせず、何を確認するかもわからずに現場を訪れ、「適正」とのお墨付きを与えていることにある。
自治体職員の知識・経験不足は深刻といわざるを得ない。