・リサイクル揺るがす再生砕石のアスベスト問題(7)
井部正之
2010年12月24日に国が発表した全国調査の資料には明らかにされていないのだが、埼玉県が破砕施設でアスベスト建材の混入を確認できたのは調査を実施した2010年6~9月の4カ月のうち最後の1カ月、つまり9月になってからだ。
些細なことと思えるかもしれないが、実はこれが重要な意味を持つ。
3割に及ぶ混入の実態
同県による6~8月の立ち入り施設数は34カ所、9月は46カ所。
つまり、全体でみると混入施設率は16%だが、9月だけを見ると28%に跳ね上がる。
3~4施設に1施設の割合でアスベスト建材が見つかっている。
NPO「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」の永倉冬史事務局長は「埼玉県の9月の調査結果が一番実態に近いのではないか。
ほかの自治体はただ行っただけで意味のない調査をしてきているとしか思えない」と指摘する。
なぜ混入は9月に多く見つかっているのか。再生砕石問題の経緯を思い出してほしい。
東京新聞がこの件を報じたのは8月中旬。それまでこの問題はほとんど知られていなかったし、規制側の自治体でも意識は希薄だった。
本連載で紹介してきたように、当初、埼玉県やさいたま市は「きちんと見て判断できる」と断言していながら、アスベスト建材がごろごろしている現場を何度訪れても見つけられなかった。
その後、埼玉県は8月27日に専門家を交えて現地調査を実施し、そこで指導を受けた結果180個以上の混入を確認する。
同県はこれを皮切りに、いくつもの現場で多数のアスベスト建材を見つけるようになった。
このように、埼玉県が再生砕石の使用現場や破砕施設でアスベスト建材を見つけられたのは、8月下旬から職員の教育に努めたからにほかならない。
同県はそれまでアスベスト建材の判別のための研修を実施していなかったことや、問題が指摘されてから職員の知識向上に努めていることを認めている。
つまり実地で専門家の指導を受けてようやくアスベスト建材を見分けられるようになったのである。
環境省など3省が今回の問題について都道府県などに知らせるとともに調査を要請する通知を出したのは9月9日。
ほとんどの自治体がこの件に取り組み始めたのはこの通知以降とみてよい。こうした事情から9月以前と以後は大きく意味が異なるのだ。
さらにいえば、国の発表資料の実地調査期間は4~10月になっている。
調査を指示する以前の4~8月を含めているのはおかしいだろう。
もともと都道府県などの廃棄物部局は産廃施設の立ち入り検査を毎年実施しており、4月から1年かけてすべての施設を回る。
環境省によれば、今回の調査はそうした「通常の立ち入り検査の一環」として報告を求めたものにすぎない。
そのため、調査期間が再生砕石問題が大きく報じられる以前の4月からとなっているにすぎず、他意はないという。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)でアスベスト建材の破砕が禁止されている以上、立ち入り検査で当然そうしたところもチェックしてしかるべきである。
だが、実際にはほとんどの自治体がそんな取り組みをしてこなかったし、職員の教育もおこたってきた。国も法規制を定めるだけで施行状況に注意を払わず、これまで調査すらしてこなかった。
だからこそ、この問題はこれまで放置され、再生砕石の使用現場のほとんどでアスベスト建材が見つかる状況がつくられてしまったのである。
ましてや国でさえ8月の報道以前はたいした問題と考えていなかったのだから、それまで自治体がこの件についてきちんとした監視・指導ができていたと期待するほうが無理だろう。
そう考えると、調査期間が報道前をむしろ長く含んでいることにどうしても意図的なものを感じてしまう。
例えば、9月以降に多数の混入が確認されたとしても8月以前の未発見率の高さによってそれを薄めることができる、との目的があってもおかしくない。
国土交通省と厚生労働省の調査は9~10月となっていることからも、環境省調査の不自然さがわかる。
いずれにせよそうした意図の有無にかかわらず、結果的に埼玉県の調査結果を“水増し”により薄めて3割という深刻な混入実態を“隠ぺい”してしまっているのは間違いない。