・■朝日8月5日 放射能汚染の土”漂流” 福島市、「運搬先は聞かないで」
原発事故で降り注いだ放射性物質を取り除く「除染」の活動が福島県で進む。
住宅街で住民が側溝の泥をさらうなどして効果を上げているが、難題は取り除いた物の持って行き揚だ。
公表しないまま、行政がひっそりと処分場に移すケースもある。
県庁から阿武隈川を挟んだ対岸にある福島市渡利地区。
7月24日の朝6時、住民と清掃業者ら計3753人が側溝などの大掃除を始めた。
市内でも放射線量が高い地区。市が要望し、住民も応じた。
住民の男性がどぶをスコップでさらう。
口を開けた麻袋を女性が差し出すと泥を放りこんだ。
4時間余に及んだ作業で袋が積み上がった。
町内会長の男性(67)が線量計を袋の山に近づける。
「やっぱり、振り切れちゃったなあ」。数値は測定上限の「9・9マイクロシーベルト」を表示していた。
「東京の人の電気のために、私たちが原発ごみのどぶさらいをさせられているんだから」と60代の主婦が嘆く。
「この泥、どこさ持ってくの?」。問われた町内会長は言った。
「市に聞いてみたら、『いろいろあるんで、それだけは聞かないで下さい』だって」
一斉清掃で集められた泥は計5853袋刈除染で線量が半分ほどに減った所もあるという。
回収は市が業者に委託。28日午前9時半すぎ、4トンダンプカーが止まった。作業員2人が麻袋を次々荷台に載せるとダンプは次の地点に。
20分後、荷台はいっぱいになった。
ダンプが向かった先は約8キロ離れた山中。
うっそうとした木々に囲まれた、市が管理する埋め立て処分場に、大人の背丈よりも深い25メートルプールほどの大きさの穴。
見ると、ちょうど別のダンプから袋を下ろしているところだった。
ダンプの荷台が煩き、麻袋がボトボトと穴に落ちる。
その間も、次のダンプが着く。
空になったダンプはタイヤを水で洗い流し、戻って行った。
この場所について、市は「他の住民の持ち込みが殺到しかねない」と公表していない。
市の担当者は「国が最終処分先を決めるまでの、あくまでも一時的な仮置き揚」と説明する。
処分揚のそばに住む男性(74)は小学生の孫2人を含む7人家族。
ダンプが頻繁に行き来する様子に「もしや」と思っていた。
「放射能に汚染された泥を大量に持ってくるのは大反対。仮置きっつったって、その先が分かねえんでしょ」
最終処分見通せず
福島県は住民側に除染を勧めており、1町内会あたり50万円を限度に補助する制度を始めた。
福島市に続き、他の市町村でも今後本格化していく見通しだが、側溝などの清掃を進めれば進めるほど、放射能に汚染された汚泥や土砂が増えるジレンマを抱える。
最終処分先が決まらない現状が自治体を悩ませている。
原子力安全・保安院が7月に公表した除染マニュアルでは、除染で生じた廃棄物は放射性がれきと同様に、1キロ当たり8千ベクレル以下であれば自治体が最終処分として埋め立てが可能だ。
しかし、自治体の担当者には「処分揚を確保しようにも周辺住民の理解を得るのは難しい。
そんな中で具体的にどう対処したらいいのか、国は一切言及していない」という不満が強い。
国のマニュアルには最終処分先についてはひと言も触れられていない。
保安院の担当者は「早く方針を示さないといけないという認識はある」と話すが、具体的な見通しは立っていない。(大月規義、村田悟)