・イギリス―健康なミツバチ10年計画―
それではイギリスのミツバチ問題はどうなのか。
2008年に実施された養蜂家連盟(BBKA)の調査によれば、その前の冬に全国の約3分の1以上のミツバチが死滅したとされる。
その急激な減少はミツバチ以外のポリネーターにも及び、野生の花の種子さえ実らなくなるほどの勢いであるという。
そして、ネオニコチノイド系農薬への対策は国に先がけて生協から始まっている。
この国の生協組織(Co-op)は全国に広大な農地を所有し、いわば国内最大の農業事業体ともいえるものだが、早くも2001年度から生協で生産する農作物について、98種類の農薬の使用を禁止した。
そして、ミツバチ問題発生後の2009年には、さらにネオニコチノイド系農薬8種類の使用を禁止した。
生協はこの措置を、この農薬がミツバチ大量死に関係がないという確かな結論が得られるまで続けるとしている。
このような生協の動きに続き、土壌連合(SoilAssociation)(注2)は、ネオニコチノイド系農薬の禁止を求める請願書を国に提出した。
そこには、「ネオニコチノイドがミツバチに悪影響を及ぼした証拠はすでに十分であり、フランス、ドイツ、スロべニアでも禁止しているのに、何故イギリスが禁止できないのか」と記されている。
ネオニコチノイドの土壌残留の問題は、無視できない大問題なのである。
そして、国レベルでのミツバチ問題への対応は、次のようなものだ。
2009年4月、政府はミツバチや蝶や蛾などのポリネーター(花粉媒介者)減少の原因の本格的究明に乗り出し、主要な研究資金提供団体が共同で新たな研究プログラムを立ち上げた。
その主たる目的は、ポリネーターの健康と寿命に及ぼす生物学的要因と、さまざまな環境要因の複雑な関連を解き明かすことである。
そして、環境・食糧・農業省(DEFRA)は、その研究資金に日本円にして約2.8億円を追加した。
この他にも、健康なミツバチ10年計画も発表し、さらに、アマチュア養蜂家にも呼びかけ、国による全国規模のミツバチのデータベース構築などが始まっている。
日本でもミツバチ問題に対して、農業の抜本的改革を含めた大きな動きを期待したいものである。
《イギリス》
①ミツバチの全国規模のデータベース構築
2万人に及ぶアマチュア養蜂家に登録を呼びかけ、ミツバチの健康状態に関する情報収集
②大規模なミツバチ研究プロジェクトを立ち上げ
主要研究資金団体が協働で新たなミツバチ研究プロジェクトを立ち上げ
③健康なミツバチ10年計画(Health Bee Plan)発表
環境食糧農村省はウェールズ行政庁とともに、
イングランドとウェールズのミツバチ保護を計画
(注1)種子処理/消毒とは:殺菌剤などにより種子のコーテイングをすること。浸透性殺菌剤であるネオニコチノイド系農薬は、欧米で種子処理剤として多用された。
薬剤が作物体内に吸収され効力を発揮する一方で、その危険性が指摘された。
フランス毒性委員会の報告書(2004年3月)は、メーカーの処方通りにイミダクロプリドで種子処理をした場合(トウモロコシやヒマワリの種)、ミツバチが経口・接触でどれほどの量のイミダクロプリドに暴露されるかを示した。
種子処理した種を撒く作業の際に環境に放出されるイミダクロプリドの量は、経口ミツバチ半数致死量(LD50)の1000倍、接触LD50の597倍と報告した。
日本では、ネオニコチノイド系農薬は水稲の育苗箱処理剤などに多用されており、その影響についての研究はまだほとんど実施されていない。
(注2)土壌連合とは:地球にやさしい食物と農業をめざす市民団体でイングランドとウエールズの慈善委員会に登録されている。
1967年にはじめて農作物のオーガニック基準を作り、2050年目標にイギリス全土でオーガニック農作物100%をめざす。