・カメムシ防除のための大きな犠牲
空中にただよう農薬禍の恐ろしさは、まさにそれが目に見えないことにある。しかも新農薬ネオニコチノイドはくさい匂いもないのだから、誰もその害を防ぐことはできない。
被害を防ぐ唯一の手立ては、この農薬を使用しないことのはずだが、全国各地の水田でイネのカメムシ防除のために、ネオニコチノイド農薬の使用が拡大している。
カメムシに吸汁され褐色になった米のことを斑点米(着色粒)というが、これ以上のネオニコチノイド散布を防ぐためには、この斑点米についての農作物検査規格を変更することが急務である。
1000粒に1粒多く着色粒が混入することを防ぐために、ネオニコチノイドが公然と散布される理不尽さを多くの人が知り、議論すべき時期が来ているのではないだろうか*。
さらに、カメムシ防除の薬剤によってミツバチだけでなく他の益虫も消え、日本の生態系が破壊されている。
それを許している現行の農政の愚かさも、同時に議論すべきではないだろうか。
谷間の水田それを取り囲む山々、点在する農家とその間を縫うように走る林道。長崎県の佐世保で見たこの風景は、日本のどこにでもある風景だった。
したがって、この土地でおきたことは、全国どこで起きても不思議ではない。
ミツバチは「環境指標生物」といわれるが、それならばミツバチの警告に耳を傾ける用意が、私たちにはあるのだろうか。
昔の「炭鉱のカナリア」は、今では「水田のミツバチ」だ。危険を警告しているのは炭鉱内の有毒ガスではなく、私たち誰もが吸っている戸外の大気である。
この佐世保でおきたことは、もしかしたら、農薬まみれの私たち日本人へのミツバチの大切な警告かもしれない。
そういう思いを深めて、私は帰途についた。
*「米の検査規格に見直しを求める会」は、2007年度から農林水産大臣に「農作物検査からコメ着色粒の項目削除を求める要望書」を提出して活動している。
米の等級制度は、1等級では着色粒が1000粒に1粒、2等級は3粒以内となっている。
米の等級が1等級から2等級に下がることによって、値段が60キロあたり1000円ほど下がる。
農家は、値段が下がるのを恐れてカメムシ防除のための特効薬、ネオニコチノイドを散布し、それが農協などによって推奨されている。
だが、消費者に米が届くときには、この着色粒は取り除かれているので問題はない。