・ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議より
http://www.kokumin-kaigi.org/kokumin03_53_07.html
・長崎レポート
ミツバチ大量死の現場から
神経をおかされたミツバチ 理事 水野 玲子
「ミツバチは巣の前で、痴ほう症になったかのようにウロウロしていた。ミツバチのアルツハイマー病だ」。
長年ミツバチをいつくしんできた長崎県養蜂組合長の清水美作さん(69)は、昨年目にしたミツバチ大量死の現場をこう表現した。
神経をおかされたミツバチたちの哀れな姿をみて、「こんなことは最近40年来なかったことだ。
農薬でミツバチの神経も行動もおかしくなってしまった」と事態の異常さに戸惑いを隠さなかった。
長崎県養蜂協会の報告では、2009年に県内で1910群のミツバチが死滅した。
ちょうどこの年から、ネオニコチノイド系農薬のダントツ(成分クロチアニジン)の使用が県で推奨されたのだ。
各地でミツバチ大量死がおきていたが、はじめの頃、養蜂家たちはその事実を語りたがらなかった。
自分たちの管理がどこか悪かったと思われたくなかったからだ。
しかし、次第にあちらこちらで同じようなミツバチの死滅が起きていることを知り、養蜂協会長の清水さんも、ネオニコチノイド農薬被害に注目し始めたのだった。
ダントツ(商品名)は、2005年に岩手県、その後北海道でもミツバチ大量死の原因として疑われた農薬だ。
しかも2008年にはドイツで、この農薬で種子処
理(種子のコーテイング)したトウモロコシなどの散布により、数百万から数億匹ともいわれるミツバチが死滅した。
各地でこのような被害が報告されながら、その事実を重く見ない農協などによって、今年もこの農薬の使用が推奨され、ミツバチの被害が拡大している。
人間の食中毒の場合は、冷凍餃子のメタミドホスの事件のように大騒ぎする日本人が、ミツバチなどの生物の被害には恐ろしいほど無関心だ。
ミツバチだけではない、生態系の被害
一方でこの問題に早くから警告を発していたのが、長崎県佐世保に住む日本ミツバチ養蜂家、ミツバチ助け隊を率いる久志冨士男さんだった。「ミツ
バチが昨年ほとんど消えた、スズメもいなくなった、ネオニコチノイド農薬を大量に使用し始めてから事態が悪化した」。
長崎でおきている生態系異変について、各地で力説していた。“被害妄想”と揶揄されることもあったというが、昆虫や鳥類の減少がこの地で急速に進んでいることは明らかに見えた。早急な対策が必要だと主張した。
去る6月中旬、私たちは久志さんが指摘する長崎県でのミツバチなど生態系異変を、この目で確かめようと佐世保を訪れた。
山間の谷あいの水田には、この季節、まぶしいほどの新緑のイネの若葉が風にゆられていた。こんなに美しいところで、なぜミツバチが死ななくてはならないのだろうか。
しかし、佐世保近辺40カ所に110群置かれている久志さんの巣箱の中でも、わずかに群れが残ったのは9群にすぎず、水田から数百メートル以内のところの巣箱は、ほぼ全滅してからっぽだった。
たしかに、その辺りで野鳥や昆虫をほとんど見かけなかった。そもそも、農薬は昆虫を殺すことを目的として開発され、長年そのために使用されてきた。
だから、昆虫がいなくなっても当然のはずだ。
しかし、現実に虫たちがいなくなった時には、ほとんどの人が声もあげずに沈黙し、何ごともなかったかのように静まり返っている。
その静けさの中、佐世保の山道を車で登り、数年前まではホタル祭りが開催できるほどホタルがいたという谷を通り過ぎた。