・6.ネオニコチノイドのヒトへの影響
ヒトへの影響については、ネオニコチノイド系アセタミプリドの空中散布や残留した食品の多量摂取で、心機能不全や異常な興奮、衝動性、記憶障害など急性ニコチン中毒類似症状の報告がある。
国内のネオニコチノイド残留基準はEUや米国に較べ極めて緩く、出荷・使用量が増え続けている。
ネオニコチノイド類は、哺乳類ではニコチン性受容体への結合性が低く毒性は弱いとされている。
確かに昆虫が死ぬ濃度でヒトは死なないが、ヒトには無害という主張の根拠には全くならない。
逆に、微量でも遺伝子発現などを撹乱し慢性毒性を発揮する可能性を考えると、ヒトのニコチン性受容体にも結合するというデータは、ヒトへの毒性がある根拠の一つとなる。
ネオニコチノイド類などニコチン類は胎盤を通過し脳にも移行しやすい。
喫煙研究の進展からニコチンは、低濃度長期曝露でも遺伝子発現の異常など様々な人体影響を持つことが分かってきた。
ネオニコチノイドが同様に脳に侵入し、たばこを吸わなくてもニコチン様の毒性作用を持つ可能性がある。
胎児・小児などの脳の機能発達には、多種類のホルモンやアセチルコリンなどの神経伝達物質により、莫大な数の遺伝子発現が時空間的に精微に調節され神経回路が形成されることが必須である。
ネオニコチノイドはニコチン性受容体を介しアセチルコリンで調節される遺伝子の発現を撹乱し発達障害を起こす可能性が高い。
有機塩素系農薬と自閉症の相関を示す疫学報告もある。遺伝子組換え作物用など一般に使われている除草剤グルホシネートにはラットの子どもに攻撃性を生ずるというデータもある。
7.おわりに
以上述べたように、有機リン系やネオニコチノイド系など農薬類は、環境化学物質の中でも特に神経系を撹乱し、子どもの脳発達を阻害する可能性が非常に高い。
環境化学物質と発達障害児の症状の多様性との関係は綿密な調査研究が必要であるが、厳密な因果関係を証明することは現状では大変難しい。
生態系や子どもの将来に繋がる重要課題として、農薬については予防原則を適用し、神経系を撹乱する殺虫剤については使用を極力抑え、危険性の高いものは使用停止するなどの方策が必要であろう。
(注 1)神経伝達物質とは、神経細胞同士で信号(情報)をやりとりするために使われている物質で、興奮性神経伝達物質にはグルタミン酸やアセチルコリン、抑制性神経伝達物質にはグリシンやGABAなどがある。
(注 2)アセチルコリン受容体にはニコチン性受容体とムスカリン性受容体の2種類があるが、ここではニコチン性受容体に話を絞る。