フィプロニル製品の販売停止―フランス―
一方で、海外諸国の中でも農薬の危険性に敏感に対応しているのがフランス政府だ。
フランスでは、かつてイミダクロプリドでヒマワリなどの種子消毒
の後にミツバチが大量死したように、2003年にはフィプロニルによるヒマワリの種子処理(消毒)が原因と見なされるミツバチ大量死が起きた。
そして同年12月にはフィプロニルの急性毒性を指摘する研究が発表されたのである。
その研究は人間へのリスクにも及び、国立科学研究センター(CNRS)の研究者は、フィプロニルの大気中の存在はミツバチを殺すだけでなく、人間にもリスクがあると結論した。
こうして翌2004年、フィプロニル製品の販売停止がフランス司法官によって命じられたのである(農業情報研究所WAPIC)。
その後、フィプロニルを活性成分とする殺虫剤・レジャントの販売停止と、ネオニコチノイド農薬イミダクロプリドを活性成分とする殺虫剤・ゴーショの販売停止の決定について、国内で議論が激化しといわれている。小麦・穀物生産協会などの生産者は「これら農薬による種子処理は、以前よりはるか
に少ない量の農薬で効果があり、これが停止されたら大量散布に戻らなくてはならない」と農相決定に反論する共同声明をだしたという。
農業者にとっては、この浸透性農薬は少量でも効果が持続する“夢の新農薬” だったのである。
新農薬の危険性を回避しようとする行政とそれに反論する農薬使用者たち、フランスにおけるこの農薬をめぐる対立の構図は、あまりにも日本の実情とかけ離れている。日本では、殺虫効果が高く、さらに影響が持続する農薬を求める農業者、農協、そして農薬企業などが一体となって使用、販売を推進し、
行政がそれにお墨付きを与えている。
しかも、“低毒性” であることを鵜呑みにした多くの国民が、この農薬の安全性を信じている。古い情報ではあるが、平成16年の日本の中央環境審議会土壌農薬部会(第17回)議事録には、フィプロニルについて、「土壌残留性が極めて低く、また、水生動植物に係る毒性は極めて低い」という専門家の意見が記載されている。
だが、フランス政府におけるフィプロニルの危険性の認識は、すでに国内の規制にとどまらず、EUにも積極的な働きかけをするところまできているのである。
ザリガニ業者がバイエル社を提訴
―米国ルイジアナ州で水系汚染―
しかし、もし日本での被害を少しでも未然に防止しようと思えば、参考になる海外での被害事例には事欠かない。米国ルイジアナ州では、1500のザリガ業者と土地所有者たちが、フィプロニルを含む製剤ICONによるイネの種子処理(消毒)によって、沼などの水系汚染と土壌汚染、そして、ザリガニが被害を受け経済的打撃を受けたとしてバイエル社を提訴した。
2004年、この問題はバイエルが賠償金($45million)を支払うことで決着した
(Beyond Pesticides: Daily News Archive 2010)が、フィプロニルが水系生物に対しては毒性がきわめて強いということは、すでに国際化学物質安全カード(WHO/IPCS/ILO) にも記されている。
このように、フィプロニルやイミダクロプリドなどの浸透性農薬による水系汚染は重大な問題であり、この先、日本でも広範囲な影響が危惧される。
取り返しがつかない状態になる前に早急な対策が求められている。
トンボだけでなく世界各地でミツバチ大量死を引き起こしたのが、これら農薬だったことを私たちは忘れてはならない。
(注)引用文献については、国民会議ホームページ参照