・「出典」:東日本大震災情報より
http://home.e06.itscom.net/chemiweb/ladybugs/0311eq.htm#yobo
・■アエラ6月6日号 5月30日発売 「放射性ヘドロ」が増殖 人喰いバクテリアの恐怖
放射能に汚染されている恐れがあるとして、福島県の沿岸に放置されている大量のヘドロ。
これが深刻な感染症を引き起こす。
震災による大津波で、被災地の沿岸部には大量のヘドロが海底から打ち上げられた。
岩手県や宮城県では順次撤去作業が進んでいるが、福島県だけは、ほとんど手付かずの状態が続いている。その量は推計で約500万トン。
福島第一原発からの放射能に汚染されている可能性が高いとして、通常であれば単なる「土砂」に過ぎないものを環境省が埋め立てなどで処分することを認めていないからだが、この「放置ヘドロ」が医療関係者の間で大きな問題になりつつある。
致死率70%超
60万トンのヘドロが打ち上げられた福島県相馬市を調査している松村有子・東京大学医科学研究所特任助教は警鐘を鳴らす。
「津波がもたらすヘドロは感染症流行の要因。本来なら早急な処理が必要なのですが……」
津波は、海底のヘドロとともに、陸地の土壌も巻き込んで沿岸部に広がっている。相馬市は津波によって農地などもヘドロ化、これも含めると、ヘドロの総量は約250万トンに達する。
土壌には、通常でも様々な病原菌がいる。
森澤雄司・自治医科大学付属病院感染制御部長によると、最も注意すべき感染症 は破傷風で、復興作業の最中に、くぎなどの深い刺し傷を放置しておくと、感染リスクが格段に上がる。
実際、国立感染症研究所感染症情報センターには、すでに岩手、宮城両県で計9件の感染例が報告されている。
しかし、放置されている大量のヘドロには、もっと恐ろしい感染症のリスクもある、と森澤氏は言う。
「ビブリオ・バルニフィカス菌による感染症です。
これは破傷風のような土壌由来ではなく、海水由来の感染症で、病原菌はエビなどの海産物の中や、淡水と海水が混ざるところに常住している。
感染し、発症した場合、肝疾患を持つ人は重症化し、致死率は70~80%にも達します。
数時間で手足が壊死して死に至ることもあるので『人喰いバクテリア』とも言われている。早めの診断が何より肝要です」
塩分濃度も無関係
しかも、このビブリオ・バルニフィカス菌は、これからの時期がますます怖い。
「塩分濃度が海水(3・5%)よりはるかに高い8%でも繁殖するし、逆に1%ほどしかなくても平気。
つまり、梅雨の時期を迎え、雨でヘドロの塩分濃度が下がっても繁殖するし、その後、夏を迎えて気温が上昇し、塩分が濃縮されると、ますます活性化する。
この先、ヘドロを放置しておくことは、リスクを高めることにしかならない」
これが今後、作業員や場合によっては住民にも被害を及ぼしかねない。
相馬市の場合、市内に一カ所だけ設けた仮置き場へ毎日500人ほどの作業員がヘドロを運んだりしている。
また、相馬市自体は原発から20キロ圏外にあり、住民が沿岸部に近づくことは何ら規制されていない。同様の事態は、南相馬市やいわき市などでも起きているが、政府はまだ何ら「方針」を打ち出していない。
そうした中で、内科医でもある相馬市の立谷秀清市長は独自の対策を打ち出した。
その一つが「粉塵関所」の設置だ。
仮置き場へ運び込むためなどの作業領域と、住民の生活エリアを分離し、作業員には「関所」でシャワーを使ってもらう。
着衣などに付着したヘドロを拡散させないためだ。
ヘドロから舞い上がった粉塵を除去するため、うがいもしてもらう。公衆衛生の専門家を東京から呼んで、作業員や住民の代表者に啓発活動もする。
大量のヘドロの前ではささやかな対症療法に過ぎないが、立谷市長は言う。
「政府が処理方法を決めたとしても、実際に撤去するには相当な時間がかかるはず。その前に、できることを全力でする、ということです」
編集部岩田智博