・■朝日5月26日 敵は悪臭 被災地進まぬごみ処理
津波の被災地が、悪臭に脳まされている。
加工工場から流れ出た大量の魚や、収集しきれない生ごみが主な原因だ。
気温が高くなるにつれて臭いはひどさを増し、健康への悪影響を指摘する声もある。環境省も対策の検討を始めた。
加工場のサンマ・サバ腐敗
湾から1キ口ほど離れた宮城県気仙沼市階上地区の田には、腐ったサンマやサバが散乱している。
「30分いたら、みんなすぐ帰ってしまう」。
近くに住む男性会社員(63)は苦笑いした。
三陸の一大漁業基地である気仙沼市では、沿岸にあった多くの水産加工会杜の冷凍・冷蔵施設が壊れ、保存されていた大量の魚が流れ出した。
男性の自宅も津波で1階が浸水し、押し入れにまで魚が入った。
2カ月以上たった今も、自宅の周りは強烈な臭いが漂っている。
市は散乱した魚などを撤去したい考えだが、環境課の担当者は「広範囲にわたり、対策が追いつかない」と話す。
気仙沼市の調査では、市内の冷凍・冷蔵施設約90カ所に約2万トンの魚や水産加工品が残り、腐敗している。
これらは岸壁に山積みされ、海に捨てるために重機で船に積み込まれているが、これも悪臭の原因になっている。
岩手県宮古市では、腐り始めて悪臭を放つ魚を同市田老の山中に埋めている。
関係者は「まるで魚の土葬のようだ」と嘆く。
震災後、海沿いにあった水産加工場の施設が津波でやられ、保管していたサケやスケトウダラなど約3千トンが腐り始めた。
このため、市は市街地から約10キロ離れた山中の市有地に約4メートルの穴を掘り、魚と土を交互に埋める作業を続けている。
市水産課の担当者は「一時的に臭うかもしれないが、土を重ねることで徐々に解消されている」と話す。
地盤沈下、収集車も来ない
宮城県石巻市塩富町の烏浜神杜前にある可燃ごみの集積揚。壊れた自転車や座布団など震災で家庭から出たごみに交ざって生ごみが山積みされていた。
「体を悪くするよ。暑くなると、なお臭くなるぞ」。
近くに住む男性(78)は顔をしかめた。
この地域は震災で地盤沈下し、潮が満ちると道路が冠水する。
このため、震災前は週2回来ていた収集車が入れなくなる。
市には毎日10件ほどごみの収集や悪臭についての苦情が寄せられ、ごみをめぐって住民が言い合いになったこともあるという。
山あいにある最終処分場には約6千トンの可燃ごみが積み上がり、毎日100トンずつ増えている。
石巻市の可燃ごみを燃やしていた広域クリーンセンターは津波で壊れた。
4月中旬から山形県高畠町にある焼却施設に処理を依頼しているが、受け入れに限度があり、追いついていない。
市内の県石巻商業高校の前の空き地には、がれきの山が3階ほどの高さに積まれている。
3年の男子生徒(18)は「臭くて窓を開けられない」。
野球部員はマスク姿で練習している。
同校が、全校生徒583人と校舎を利用する同市立女子商業高の生徒112人に調査をしたところ、96人が「のどが痛い」、63人が「目が痛い、かゆい」(一部複数回答)などと体調不良を訴えた。
ストレスで体調崩すケースも
悪臭問題に詳しい立命館大の樋口能士准教授(環境工学)によると、悪臭の原因は、腐敗した水産加工品や生ごみのほか、建築資材にもあるという。
石膏(せっこう)ボードが海水や泥をかぶって放置されると、海中のバクテリアの作用で有毒の硫化水素が発生することもあり、頭痛やのどの痛みなど身体に影響を及ぼす要因にもなりうると指摘する。
「臭いが心理的なストレスとなって体調を崩すケースも多い。
気温が上がると食料や動植物の腐敗が進み、より事態が深刻になる。
感染症防止のためにも行政が臭い対策に本腰を入れるべき時期に来ている」と訴える。
対策として、腐敗物を取り除くほかに、殺菌剤をまいて消毒したり、がれきなどに雨よけのシートをかぶせて乾燥させたりすることも有効だという。
社団法人日本ペストコントロール協会(東京都千代田区)は、石巻市の要請で道路脇に放置されたがれきなどを消毒。
岩手県大船渡市でも、腐敗した魚から発生したウジやハエの殺虫作業を行った。
環境省大気生活環境室は「情報を集めてどんな対策が取れるか検討している」という。