・■朝日新聞3月30日朝刊
「がれき難題「阪神」以上 仮置き場不足 リサイクル苦戦」
東日本大震災で生じた膨大ながれきについて、宮城県沿岸部の被災地で29日、県や関係市町村による撤去作業が始まった。
一時保管する仮置き揚の見通しは立たず、最終処分も県内のごみ処理場だけでは追いつきそうにない。
阪神大震災か際に進んだがれきのリサイクルも課題となる。
石巻市で始まった県のがれき撤去作業。ショベルカーが木材や畳、ヘドロをトラックに積み込んでいく。
海辺の造成地を一時的ながれき置き場にするが、作業を進める建設会杜の富林憲啓さん(40)は「このぺースだと、すぐにいっぱいになる」と語った。
県の推計では、がれきは1500万51800万トンにのぼる。
1年間に排出される一般廃棄物の23年分だ。
大量のヘドロは推計に含まれておらず、総量はさらに増える可能性がある。
県では阪神大震災の経験を参考にしようとしている。
17,18日には、宮城に来た兵庫県職員から「がれきの全体量から処理のグランドデザインを」「仮置き場は集積と処理の工程で2カ所に分けた方が効率が上がる」などという助言を受けた。村井嘉浩・宮城県知事は28日、「おおよそ3年。
被災者の目の前からがれきをなくす」と宣言した。
ただ、阪神エリアとは環境が違う。未利用の埋め立て地が神戸市周辺にあった兵庫県は、1980万トンのがれき処理に対し、東京ドーム26個分以上にあたる計125万平方メートルの仮置き場を確保した。
近隣に大阪や京都などの大都市があり、処理を委託しやすい環境にもあつた。
リアス式海岸が続く東北の三陸沿岸部には、仮置き場になる埋め立て地はほとんどない。
宮城県庁内では「海に埋めることも選択肢」という声もあがるが、県議からは「豊かな海を破壊するわけにはいかない」との反発もある。
岩手県では29日、沿岸部の首長を集め、がれき処理に関する会議が開かれた。
沿岸12市町村のがれきは計380万トンとの試算が示され、県は年内に一時保管施設に移して3~5年かけて処理する目標を示したが、首長から戸惑いの声があがった。
「うちは小さな村。がれきの一時保管場所は仮設住宅の設置場所でもある。
3年も5年もかかると言われては仮設住宅が建てられない」。野田村の小田祐士村長は訴えた。
「司令塔つくって」
がれき撤去の政府指針をまとめた法務省では、28日の政務三役会議で指針の「使い勝手」がテーマとなった。
終了後、小川敏夫副大臣は記者団に「仮置き場はちょっとした原っぱでもいいし、場所がなければがれきのあるその場の判断でもいい」と釈明した。
課題は仮置き揚の設置だけでない。
放置された自動車や船にどれだけ価値があるのか、「無価物」となったがれきをどう処理するのか--。
小川氏は「現場で判断してもらうしかない」と語り、いずれも自治体に委ねる考えを示した。
松本龍防災担当相は29日、がれき処理にかかる費用の全額を国が負担する方針を正式表明した。
ただ、具体的な処理方法となると、「(がれきの)分別ができない市町村もあろうかと思うので、指針を示していかなければならない」と述べるにとどめた。
廃棄物処理やリサイクルを管轄する環境省は「倒壌してがれきとなった建物は撤去して差し支えない」「外形上、動かないと認められる車は撤去できる。移動前に写真などで記録し、所有者に連絡する」など、現行法による対応策をまとめた。
だが、被災地の自治体からは「保管場所の土地を購入した場合、補助金の対象になるのか」といった問い合わせが続いている。
リサイクルも簡単ではない。
地震による倒壊だけでなく津波を受けたため、鉄や木材はヘドロまみれになって分別には相当の時間がかかる。
行政機能が失われた自治体もあり、「阪神大震災では神戸市が司令塔になって連携ができた。
被災地の要請をまとめる司令塔をつくってほしい」との声もある。
環境省の担当者は「埋め立てや焼却、分別やリサイクルという実際の業務を担うのはあくまでも自治体。
地域によって状況も違うので、それぞれ判断してもらうしかない」と話している。(平井良和、鈴木拓也)