・7.ストロンチウム-90(90Sr)
半減期 29. 1年
崩壊方式
ベータ線を放出してイットリウム-90(90Y、2.67日)となり、イットリウム-90もベータ崩壊してジルコニウム-90(90Zr)となる。
イットリウム-90は、核分裂直後はほとんど存在しないが、時間の経過とともに量が増す。
1ヶ月後には放射平衡が成立して、ストロンチウム-90とイットリウム-90の放射能強度は等しくなる。
生成と存在
よく知られた人工放射能。ウラン鉱の中で、ウラン238(238U)の自発核分裂などによって生じるが、生成量は少ない。
人工的には、核分裂による生成が重要である。
1メガトン(TNT換算)の核兵器の爆発で4,000兆ベクレル(4.0×1015Bq)が生成し、ストロンチウム-89(89Sr、50.5日)も80京ベクレル(8.0×1017Bq)が生じる。
ストロンチウム-89/ストロンチウム-90放射能強度比は200である。
電気出力100万kWの軽水炉を1年間運転すると、10京ベクレル(1.0×1017Bq)のストロンチウム-90と260京ベクレル(2.6×1018Bq)のストロンチウム-89が蓄積する。
上で述べた放射能強度比は26である。
化学的、生物学的性質
ストロンチウムはカルシウムと似た性質をもつ。
化合物は水に溶けやすいものが多い。
体内摂取されると、一部はすみやかに排泄されるが、かなりの部分は骨の無機質部分に取り込まれ、長く残留する。
成人の体内にあるストロンチウムの量は320㎎である。
生体に対する影響
イットリウム-90は高エネルギーのベータ線(228万電子ボルト)を放出する。
このベータ線は水中で10㎜まで届き、ストロンチウム-90はベータ線を放出する放射能としては健康影響が大きい。
10,000ベクレルのストロンチウム-90を経口摂取した時の実効線量は0.28ミリシーベルトになり、10,000ベクレルのストロンチウム-89を経口摂取した時は0.026ミリシーベルトになる。二つの場合で線量が約10倍違うが、その原因はベータ線エネルギーと半減期の差による。
外部被曝が大きくなる恐れがある。
皮膚表面の1cm2に100万ベクレルが付着した時には、その近くで1日に100ミリシーベルト以上の被曝を受けると推定される。
環境被曝の経過
主な体内摂取の経路は牧草を経て牛乳に入る過程で、土壌中から野菜や穀物などに入ったものが体内に摂取されることもある。
また、大気中に放出された時には葉菜の表面への沈着が問題になる。
核兵器実験の影響
大気圏内核兵器実験では、すべての放射能が大気中に放出され、地球上の広い地域に降下するので、全人類に放射線影響がおよぶといってもよい。
アメリカと旧ソ連による大規模な大気圏内核兵器実験の影響で1960年代前半に大気中濃度が上昇し、食品の汚染がいちじるしかった。
当時の日本人は1日に約1ベクレルのストロンチウム-90を取り込んでいたと推定されている。
ストロンチウム-89の影響もあり、このような取り込みによる被曝は避けねばならない。
1963年までに、アメリカ、旧ソ連、イギリスとフランスが大気圏内核実験をおこなわなくなった。
1964年以後は中国の核実験のみが大気中に放射能を放出していたが、1980年10月以降は中止している。
その後は、地下核実験がおこなわれている。
この時に、大部分の放射能が地下に残るが、後に地下水の作用で外に漏れることも考えられ、地下核実験はどこでもできるものではない。
また、クリプトンやキセノンのように気体である放射能は外に漏れる恐れがある。
核爆発の瞬間にはクリプトン-89(3.2分)、クリプトン-90(32秒)が崩壊を繰り返してストロンチウム-89、ストロンチウム-90になるので、放射性ストロンチウムは他の放射能より放出されやすいと考えられる。