・人間より風評被害が重要?
これは考えてみれば、恐ろしいことでもある。
現実問題として、2~3シーベルトの放射線を浴びた以上、将来的にその影響がでないとは誰も断言できない。立命館大学名誉教授の安斎育郎氏もこう語る。
「作業員の方たちは、おそらくストロンチウム90やイットリウム90といったベータ線を出す放射性物質に触れてしまったのでしょう。
脅かすつもりはありませんが、将来的に被曝した足の部分やその周辺にがんのリスクが少し高まったことは確かです。
今後はこまめに医師の診断を受けたほうがいい」
その通りだが、いったん「人体への影響はない」と診断されてしまえば、将来的に影響が出た場合、誰が責任を取ってくれるのか。
国が何十年にもわたって経過観察のための費用や、万一、がんになった場合の治療費などを出してくれるとは到底、期待できない。
それは'99年に茨城県東海村で起きた「JCO臨界事故」のケースからも明らかである。
東海村で住民の健康被害について調査を続けてきた村議会議員・相沢一正氏が言う。
「東海村の事故では600人から700人の住民が被曝したと公表されました。
その後、12年にわたって、がんの調査を継続的にしていますが、住民の中にがんになる人が事故前と比べて増加し、すでに亡くなった人もいます。
しかし、国は公的な追跡調査をいっさいやろうとしません。お茶やレンコンといった食品の風評被害ばかりが強調され、農家には損害賠償も行われたのに、人間の被害についてはそっちのけだったのです」
住民のなかには、事故以降、体調を崩し、放射線の影響だという診断書までもらいながら、国からは見舞金名目で1万円だけ支払われたという人もいる。
この人物はいまだに病院通いを続けているが、もちろんすべて自費である。
東海村の事故の場合、避難要請が出たのは事故現場から半径350m。
10km圏内の住民には屋内退避が呼びかけられた。屋内退避が解除されたのは約18時間後だった。
今回の事故とは避難や退避の範囲や期間の長さも異なる。
その東海村でさえ、国は被曝者に対して晩発性の障害を認めなかったのだから、被曝者が何人になるか想像さえ付かない現在の状況では、後の人体への影響まで責任を持つとは考えられないことが理解できるだろう。