・3.ナノ技術適用に予防的アプローチを求める意見
3.1英国王立協会・王立工学アカデミー報告 2004年
2004年7月に発表された英国王立協会・王立工学アカデミーの報告書『ナノ科学、ナノ技術:機会と不確実性』 は、英国だけでなくナノに関心を持つ世界中の人々に大きな影響を与えました。
この報告書は21項目からなる重要な勧告を含んでいますが、その中でナノ物質の環境中への放出に関連して、次のように勧告しています。
R4 ナノ粒子及びナノチューブの環境への影響についてもっと多くの知識が得られるまで、人工ナノ粒子及びナノチューブの環境への放出は可能な限り避けるよう勧告する。
R5 特に、現状及び潜在的な自由なナノ粒子及びナノチューブの環境への放出の二つの主要な源に関連して、下記を勧告する。
工場と研究試験所は人工ナノ粒子及びナノチューブをそれらが危険であるという前提で取り扱い、廃棄物の流れに入ることを低減又は除去するよう勧告する。
自由な(すなわち母材中に固定されていない)人工ナノ粒子の環境中での適用(例えば環境修復など)は、適切な研究が実施され、潜在的な利益の重みが潜在的なリスクに勝ることが証明されるまで、禁止されるよう勧告する。
3.2 ETCグループ ニュース・リリース 2006年10月18日
カナダの環境団体であるETCグループはそのプレスリリース『EPA のナノテク規制:皮肉な限界-浄化か? 沈黙か? 奮起か?』の中で、EPAの環境修復の実験いついて、安全である根拠がない地下水浄化実験として、次のように批判しています。
"EPAは会社がナノスケール化学物質の製造と商業化を行うための道を開いているだけでなく、人工ナノ粒子を環境中に放出することについても積極的に加担している。EPAは2006年1月に、オハイオ州にあるニーゼ化学会社のスーパーファンド・サイトでゼロ価鉄ナノ粒子を地下水に注入して浄化するという計画を発表した。"
"少なくともあるナノ粒子は環境中で有毒であり人の暴露にとって潜在的に安全ではないことがありえることを示す証拠が増大している。この事実にもかかわらず、EPAは農薬汚染場所を浄化するために地下水に鉄ナノ粒子を放出する実験をしようとしているとETCグループの代表パット・ムーニーは指摘している。"
3.3 英国王立環境汚染委員会報告書2008年
英国王立環境汚染委員会が2008年11月に発表した報告書『環境中の新奇物質:ナノテクノロジーの場合』は、新奇物質としてのナノ物質の一般的な適用について、全面禁止又はモラトリアムの根拠はないとしながらも、下記のような過去の教訓をあげています。
"現在の新奇物質の導入は、環境ハザードの源であると我々に推測させるような明確な出来事はまだ起きていないが、我々は、当初は全く安全であると考えられていた新たな化学物質や製品が、後には環境と公衆の健康に非常に高価についたという過去の経験を十分に知っている。
それらには、救命難燃剤や有益な断熱材であったアスベストが重大な肺疾病を引き起こす;冷蔵庫、断熱材、電子機器など様々な応用で完全に無害であると考えられていたクロロフルオロカーボン(フロン)も大気に莫大なダメージを与える;ガソリン用アンチノック剤四鉛化鉛は、排気ガスに暴露した子どもの精神発達に有害である;船底の防汚用塗料添加物トリブチルスズは海洋生物に深刻な結果をもたらす。
そのような過去の経験と最近の研究結果に照らして、我々は英国環境庁が最近、非固定のカーボン・ナノチューブを含む廃棄物を有害物質として分類する予防的アプローチをとったことを特筆する。"