・2.米EPAが推進するナノ環境修復
2.1 米EPAナノ技術白書
EPAは2005年12月に発表したナノ技術ドラフト白書の中で、"過去5年間、EPAはナノ技術の環境への適用を開発し、潜在的な人の健康と環境への影響を理解するために、研究に資金を出し、研究方向を設定することについて主導的な役割を果たしてきた。
この様な研究は既に実を結んでいるが、特にそれは、ナノ物質を環境浄化のために使用すること、及び生物学的システム中でのナノ物質の性質を理解することである」と述べ、ナノ環境修復への応用に力を入れていることを示しています。
2007年2月に発表された同白書最終版[3]では、(1) グリーン製造技術(グリーンマニュファクチャリング)、(2) グリーンエネルギー、(3) 環境修復・環境処理のリサーチニーズ、(4) センサー、(5) その他の環境問題への応用-を重要研究と位置づけてその実施を提言しています。
2.2 EPA研究者らによるナノ環境修復のレビュー論文
米国立環境健康科学研究所のジャーナルEHP電子版にEPA及びPENの研究者によるレビュー論文「ナノテクノロジーと原位置修復-便益と潜在的リスクのレビュー」が2009年6月24日付けで掲載されました。
汚染地下水や汚染土壌の修復へのナノ技術適用に関する多くの論文のレビュー結果と、この技術を適用している世界7カ国45汚染サイトの情報を紹介したものです。
著者らは環境修復へのナノ技術適用の便益を力説する一方で、ナノ技術適用に伴う健康と環境への有害影響の可能性を示す多くの論文を引用しています。
しかし、
"それらの論文の合意は慎重さ(caution)であり、予防(precaution)ではない。そして決定的なリスクデータがないのなら、この技術は一般的に有害性より有益性が勝るとみなされる(原文:33頁)"
という恐るべき見解を示しています。
ここには有害性の懸念がある場合にとられるべき予防的アプローチの考えが全くありません。
この論文の見解は論文の著者らのものであり、必ずしもEPAの意見を代表するものではないが、この論文は米EPAのレビューと発表の承認を受けているとしています。
この論文のナノ環境修復の便益を特に強調した結論を読むと、著者らの見解は、有害影響が懸念されているにも関わらず経済的便益を優先して、環境修復へのナノ適用を実際に推進している米EPAの考え方を端的に示していると考えられます。