危険性についての懸念 [編集]ナノテクノロジーの潜在的用途については非常に様々なものが主張されており、それらが現実となったときに社会に与える影響について重大な懸念が表明されており、それらの危険性を和らげるためにどうするのが適切かについて議論されている。
ナノテクノロジーの発展に従って何らかの危険が生じる可能性がある。
Center for Responsible Nanotechnology は、追跡不可能な大量破壊兵器、政府によるネットワーク化されたカメラによる監視、軍拡競争を不安定にするほどの急速な兵器の開発などを示唆している
(外部リンクの "Nanotechnology Basics" 参照)。
1つには、ナノテクノロジーによる大量生産やナノ素材の大量使用が人間の健康や環境に及ぼす影響への懸念がナノ毒性学の研究で示唆されている[25]。Center for Responsible Nanotechnology のような団体は、そのような理由から政府によるナノテクノロジーへの特別な規制が必要だと主張している。
それに対して、過剰な規制が人類に役立つ科学技術の発展を妨げるだろうと反論する向きもある。
ウッドロウ・ウィルソン・センターで Project on Emerging Nanotechnologies を指揮している David Rejeski は、ナノテクノロジーの商用化を成功させるには適正な監督とリスク研究戦略と公的契約が必要だと証言している[26]。
アメリカ合衆国では今のところバークレーが唯一ナノテクノロジーを規制している都市である[27]。
ケンブリッジでも2008年に同様の規制が検討されたが[28]、最終的に否決された[29]。
人体や環境への影響 [編集]最近開発されたナノ粒子製品のいくつかが思いがけない結果を生む可能性もある。
例えば、消臭靴下に使われている銀のナノ粒子が洗濯によって環境にばらまかれていることが判明し、それによって悪影響がある可能性も指摘されている[30]。
銀のナノ粒子は制菌作用があるため、廃棄物処理場や農場などの有機物の分解に役立っている菌を殺す可能性があるという[31]。
ロチェスター大学での研究で、ネズミがナノ粒子を吸い込むと脳と肺に蓄積され、炎症やストレス反応を引き起こすことが判明した[32]。
中国の研究では、無毛マウスをナノ粒子にさらすと皮膚の老化が早まるという結果が報告されている[33][34]。
UCLAでの2年間の研究によれば、ネズミのDNAが二酸化チタンのナノ粒子でダメージを受けることが示され、「ガン、心臓病、神経系疾患、老化など、人間にとっても死の危険性を増す可能性がある」とした[35]。
「ネイチャー ナノテクノロジー」誌に掲載された研究によると、ある種のカーボンナノチューブを十分な量吸引すると石綿と同様の健康被害があるという。
エジンバラの Institute of Occupational Medicine に勤める Anthony Seaton はその研究に関する記事の中で「カーボンナノチューブの一部が中皮腫を起こす可能性がある。
したがって、そういった新素材は非常に慎重に扱う必要がある」と述べている[36][37]。
政府によるナノテクノロジー規制がない現状に対して、人工ナノ粒子を食品に用いないよう要求する声もある[38]。塗装工場の作業員が肺に重い疾患を負い、調べてみると肺からナノ粒子が検出されたという報道もある[39]。
規制に関する議論 [編集]ナノテクノロジーの健康への影響に関する議論の中で、ナノテクノロジーをより強く規制すべきだという主張もなされている[40]。
さらに、ナノテクノロジーを規制する責任があるのは誰かという議論も重要である。
一般に毒物はいくつかの観点から法的に規制されているが、それらの法律でナノテクノロジーを規制できるかというと明らかにギャップが存在する[41]。"
Nanotechnology Oversight: An Agenda for the Next Administration"[42] の中で元EPA副長官 J. Clarence (Terry) Davies は、次の大統領任期中の明確な規制のためのロードマップを提案し、ナノテクノロジーの監視についての現在の欠点を克服するための短期および長期のステップを解説している。
ウッドロウ・ウィルスン・センターの Project on Emerging Nanotechnologies で主任科学アドバイザーを務める Andrew Maynard は、健康と安全に関する研究への予算が不十分であるため、ナノテクノロジーの健康への影響や安全性への理解が今のところ限定的になっていると指摘した[43]。結果として一部の研究者は、たとえナノテクノロジーの発展が阻害されるとしても予防原則を厳密に適用すべきだと主張している[44]。
王立協会の報告書では[45]、商品の廃棄・破壊・リサイクルの間にナノ粒子やナノチューブが拡散する危険性があるとし、「生産者の責任において健康や環境への影響を最小限にするような製品ライフサイクル全体に対する施策を行うべきだ」と助言している。