・ 外傷的解離 [編集]複雑性PTSDの主症状は解離である。
解離現象は現在、それまでのジークムント・フロイト(1900)の抑圧の理論に変わって重視されている。
解離は抑圧の理論を提唱したフロイトを始めとして、多くの学者が早期のトラウマ体験の症状として述べたものであり、ジャン=マルタン・シャルコー(1887)や弟子のピエール・ジャネ(1887)が提唱したものである。
解離とは意識に上る前にある心理内容と、他の内容との連結を無意識的に断絶する事を指す。
一方で抑圧というのはそれらを積極的に追い出すことで葛藤がもたらすものを支配することを指す。
それゆえ解離状態の体験が意識化された際は本人の苦痛は激しいが、抑圧の場合はそれがない。
解離状態は精神的苦痛から自己を守ろうとする自己誘発性催眠により発生し、結果別々の心理内容は接点を持たず並存し、精神的な不調和を警告する繋がりが消滅し、同じ対象に対する自己内部の異なる感情は全くの矛盾なく並存しうるため、過去の心理的外傷を混乱した感情から分離する事が可能となる。
その混乱した感情自体は意識に表出する事はなく、言語に象徴化されない。
人間は通常広義で経験を解離するがこれは非防衛的なものであり「整理されていない体験」と呼び「広い意味で」解離しているとする。
解離の能力は人間の人格発達においての構成要素の一つでもあり、通常の人間は「非自己」に対し「厳密な意味で」解離現象を起こし、一貫した自己感覚を確立する。
van der Kolk(1996)は心的外傷に関する解離現象の推移を研究し、一次解離、二次解離、三次解離の順に推移するとした。
まず、一次解離においては圧倒的恐怖により知覚が断片化される。
二次解離においては離人症や現実感の喪失が見られ、痛みや苦痛の感覚の消失が起こる。
最後の三次解離の状況においては外傷的体験を担うため別の自我状態が現れ、この時点において具体的な解離性障害の臨床像を呈することになる。
外傷的解離は心理的外傷を生み出す圧倒的状況に対する精神的適応反応であり、それらは日常体験としての白昼夢等の解離現象の一端の解離連続体とされる。
連続体仮説はBernstein、Putnamらにより提唱されたもので、健常な解離(normal dissociation)、解離性健忘(dissociative amnesia)、解離性遁走(dissociative fugue)、特定不能の解離性障害(dissociative disorders not otherwise specified、DDNOS)、解離性同一性障害(dissociative identity disorder、DID)の順に複雑性が増していくとされる。
この外傷的解離により自我から分離した体験は、自我の認知処理能力を超えた情報であり、象徴化されない原情報のまま保存される。
自我は分離し、複数の自己状態が作り出され個々に組織化され、互いに異なった思考、記憶、感情、行動を持ち、それぞれ別々に麻痺と侵入の機能により意識に上る。
その際、それらの分離した自己状態は侵入的印象、暴力的再演、極度の悪夢、不安反応、心気的症状、極限的身体感覚等を与え、自己の存在を示す。外傷的解離は情報処理メカニズムを閉鎖し、心理的苦痛の感覚及び記憶の新たなる侵入を防ぎ、心的外傷による自己の崩壊を回避する事が可能となり、その状態において統合された自己感覚の保持に成功するのである。
Hermanは著書「心的外傷と回復」においてこれを「解離的技巧」と呼び、性的虐待を受けた人はこれにより現実検討能力を低下させ自らの苦痛を複雑な健忘の内部に隠してしまうことを述べた。
しかしこれには弊害があり、Hermanは「心的外傷と回復」の増補版において自らが解離を防衛機制として評価しすぎたことを反省し、解離がレイピストたちによる再被害を容易にさせてしまうことを述べている。[1]
その状況は心理的外傷を生み出す圧倒的状況が過ぎた後も保持され、自己の本来的な感情、記憶、危機意識を麻痺させ現実検討能力の全般的低下をもたらす。
また、解離の働きが不完全な場合、保障行為としての解離的適応行動としての一時的防衛の一つとして嗜癖行動等をきたす。
さらに解離の働きが不完全となりそれらの防衛が突破されると、性的強迫観念に基づく不特定多数との性行為など危険な行動を起こす。
この性的強迫行動をGold(2002)は「性嗜癖・強迫衝動(sexal addiction/compulsivity、SAC)」と呼ぶ事を提唱した。SACの状況においては通常の性の喜びは存在せず、単純な性的興奮及び麻痺、屈辱感、不快感がもたらされる。
また、解離性トランスも促しており、痛覚消失物質オピオイドも同時に発散されている。