・治療概論
治療目的
WHOでは以下の3点を重視して治療を行う。
殺菌と感染源対策
治療薬を用いてらい菌を殺し、活動を弱める。
また、その活動性病変を抑えることによって、他人への感染を防止する。
障害予防
ハンセン病に罹患すると、らい菌の生体免疫反応によっていろいろな障害を引き起こす。
そのため、適切な治療を行い、できるかぎりの障害を予防することが重要である。
これを、障害予防 (POD: prevention of disability)という。
ハンセン病罹患中に生じるらい反応の治療もこれにあたる。
ハンセン病において最も後遺症などの問題となる末梢神経障害は著しくQOL(生活の質)を低下させるためのみならず、偏見差別にも結びつくので、早期発見・早期治療を行う必要がある。
合併症と後遺症の予防と治療
ハンセン病に起因した神経障害による後遺症に対して、2次的に悪化させないようにすることが必要である。
もし不幸にして障害が起こってしまった時には、それを少しでも軽くなるよう努め、手術を用いてでも機能の回復をはかるといった取り組みが行われる。
これを障害悪化予防 (POWD: prevention of worsening disability) と呼ぶ。
不適切な治療の結果や、当時、治療薬が十分に確保されていないために入所している方の多い日本では特に重要視されている治療である。
殺菌と感染源対策の治療
抗がん剤#代謝拮抗剤|ジアフェニルスルホン(DDS)(レクチゾールR・プロトゲンR)、クロファジミン(CLF)(ランプレンR、B663)、リファンピシン(RFP)(リマクタンR・リファジンRなど)の3者を併用する多剤併用療法 (MDT,Multi-drug therapy) が治療の主体である。
この多剤併用療法は、薬剤耐性菌を予防する意味もがあり、同じ抗酸菌の一種である結核の治療も同様の多剤併用療法が行われる(使用薬剤は異なる)。
なお、WHOでは、菌数による病型分類を採用しており、MB(multibacillary, 多菌型)とPB(paucibacillary, 少菌型)の2種類に分けて投与量・治療期間を決定する(MBのほとんどはL型・B群、PBのほとんどはT型・I群に相当する)。
最近では、ニューキノロン|オフロキサシン (OFLX)、クラリスロマイシン (CAM)、抗生物質|ミノサイクリン (MINO) なども有効であることが分かり、薬剤耐性検査を施行した上で上記基本治療薬が使用できない症例などに併用されることもある。
なお、日本における保険適応薬はジアフェニルスルホン、クロファジミン、リファンピシン、オフロキサシンである。
障害・後遺症の予防と治療
らい反応など強い反応が生じた場合は、通常の治療に加えて次のような治療も必要となる。
1型らい反応に対しては大量ステロイド、2型らい反応にはサリドマイドまたはステロイドを使用する。
: 変形に対しては、形成外科の発展と共に手術療法も行われるようになった。
種々の変形、眼瞼下垂、脱毛などである。
眉毛の脱毛に対しては血管をつけて毛髪の皮弁を移動したり,血管を着けずにまとめて移植したり、また別に1本植え(田植え)という方法がある。
しかし、毛が生着しても不自然な感じが残る場合が多い。
: 急性の神経炎に対しては、ステロイドの投与などの治療により回復する場合も多い。
手術療法としては神経減圧術がある。
: 知覚麻痺による熱傷や外傷は通常の治療法に準じる。
ただし神経障害に起因する易感染性や瘢痕形成が生じるため、通常の場合より難治であることに注意する必要がある。
知覚がない状態でも熱傷や外傷が起こらないような日常生活の改善を行ったり、装具などを使い外傷の予防、本人への十分な注意喚起を行う。
また、関節拘縮も必発するため、リハビリテーションを継続的に取り組むことも肝要である。
: うら傷発生の予防に関して足浴を行う施設が多い。
外国でも国内でも行われている。
療養所によっては大きい足浴場もある。
日本国外の療養所では大きい洗面器の様なツボを使っているところもある。
神経痛のあるハンセン病の場合は暖まってその後冷える際に神経痛が増悪することに注意が必要である。