・柳沢 お話を聞いていますと、化学物質過敏症になってしまった場合、2通りの考え方があるようですね。
転地するかどうするか病気自体にかかわるしんどさ。
それから治療にかかる費用や、仕事ができないことによる経済的な不安です。裁判で責任を明確にさせていくしんどさ。
恐らく今日ここにおいでの方の中にも、建築関係の方や建材関係の方もいらっしゃると思いますが、この話をつくる側から考えますと、つくるほうももともと悪意をもってつくったわけではないと思います。
お客様が満足する家をつくろうと思っても、結果として化学物質過敏症を生んでしまった。
これが化学文明がもたらした負の遺産なのではないかと思います。
負の遺産にならないように最初から考えている「木の城」のような家もありますが、多くの場合は負の遺産をつくった事例がたくさんあると思います。
次に医学的な観点から、化学物質過敏症の患者さんのもっとも身近かにいらっしゃる吉田先生に、旭川医科大学の取り組みについてお話いただきたいと思います。
吉田 大学内におきまして、私は環境汚染物質とか、室内を汚染するホルムアルデヒド、スチレン・トルエン等の毒性を調べています。
旭川医大に赴任いたしましてからは、シックハウス症候群討委員会の委員を勤めておりまして、今日ここに出席させていただいたわけです。
旭川医大の今後の取り組みについてお話させていただくわけですが、北里研究所の石川先生が理事長をつとめていらっしゃる日本臨床環境医学会は、北里大学・北里研究所と旭川医大が中心となって設立した学会ですが、環境にある物質が臨床的に見てどのように影響するかということを研究する学会です。
したがって従来から化学物質過敏症に対する研究と対策に携わってきました。臨床現場におきましては、産婦人科と内科が中心になり、そこに皮膚科や眼科、耳鼻咽喉科などが加わりまして、協力して患者さんの対応に取り組んできたという経緯がございます。
今回旭川市に化学物質過敏症患者の住宅が建設されることを契機に、当大学におきましてはシックハウス症候群検討委員会をつくり、産掃人科教室の教授である石川が委員長となりまして、臨床医学の各教室、私たち衛生学、公衆衛生学の教室からも委員を出しましてスタートしたものであります。
いずれは正式な委員会として活動することになっております。
化学物質過敏症は、先程石川先生のお話にもありましたが、主に室内空気を汚染する化学物質、ホルムアルデヒドとかVOCとして紹介される物質が原因となって発症します。
一般的な毒性、いわゆる中毒を起こすものよりははるかに低い濃度にさらされることが原因で発症するわけです。
その症状は、神経、呼吸器系、循環器系、消化器系、皮膚、目、耳鼻咽喉系など、たいへん多岐にわったって症状が出ることがわかっています。
また自律神経症状とか精神神経症状に出る場合が多いこともわかっています。
すべての人が発症するわけではありませんが、いわゆる体質などが関与していることは明らかになっています。
このように化学物質過敏症は、発症のメカニズムとか症状が非常に複雑です。
また多様性に富んでいるということで、一つの教室で対応できるものではありません。
そのために多くの医学領域の協力が必要となりまして、各臨床の教室であるとか、もともと毒性学の研究をしております私達予防医学の者も参加したわけでございます。
患者住宅の入所の手続きにつきましては、主に北里研究所のほうでしてくださることになっています。
しかし実際に旭川に参るわけですから、その間患者さんの医療機関として旭川医大が責任を持つことになります。
患者さんはいわゆる転地療法をするわけですから、その効果を判定しなければなりません。
症状が悪くなる方もいるかもしれません。
風邪とかお腹をこわすとか一般の病気にかかることもあるかもしれません。
その対応と共にメンタル的なサポートも必要になろうかと思います。
私どもは地域貢献のかたちで取り組んでまいります。
また患者施設内、周辺環境の調査ですとか、化学物質過敏症の予防と治療など基礎的な研究にも携わり、地域社会に対して一般環境とか住宅環境はこうあるべきだというような行政による啓発に対しても、医学的裏付けを行うなど、旭川医大が貢献できることではないかと思っています。
さきほどクリーンルームという話が出ておりましたが、これが実際に稼働しておりますのは北里研究所だけでして、次にそれが相模原に出きそうだということで、国のほうでも全国をいくつかのブロックに分けてつくっていく構想があると聞いております。
このような施設がぜひ旭川医科大学の周辺にできるならば、診断や改善したかどうかの判断にたいへん役に立つと思います。
そういう施設をぜひ旭川に誘致していただきたいと思います。
旭川医大ではこれまでもある程度患者さんへの対応は進めてきたわけですが、本当の専門医という者はおりません。
したがいまして北里研究所のご協力を得まして、いろいろな領域の若手のドクターを派遣し研修させまして、今回のように化学物質過敏症の患者さんに対するケア対応を順次整えていこうと思います。
旭川医科大学も地域に根ざしまして、今回の共同研究を基に化学物質過敏症の発症原因の解明、そして治療に取り組みたいと思います。
また患者さんを支援していただける団体の活動に対しましても、ご協力させていただきたいと思います。