・山口 私は浜益群千代志別という陸の孤島、大自然の中で育ちました。
この道に入って50年になりますが、自然界に生まれ育ったことが、生命地域にやさしい、自然にやさしい感覚を植え付ける私の人生のスタートになりました。私が学んだのは大自然であり、厳しい地域環境であり、先人の知恵だったわけです。
それをそのまま、木の事業家を目指した私が志した道に生かしたわけです。
ですから、日本の戦後50余年の文明偏重の結果である化学物質過敏症という新しい病気についても、自然と人間と地域に学んできた私にとっては、当然予測された文明化学社会の結果であると思い続けていました。
今から50年前の北海道の住宅にも日本の住宅にも、化学物質過敏症の原因になるような要素はありませんでした。
特に北海道は「スケスケ忍而我慢住宅」ばかりでしたから、化学物質過敏症なんかになる理由もありませんでした。なぜこんな事態になったかと言うと、それは日本の社会全体に原因があります。
近代化学文明による産業が発展していくことによって、現在のような文明の暮らしをしているわけですが、その結果生まれたのが化学物質過敏症です。
今、データをごらんになったこの建物は、北海道の特にこの上川地方に多いエゾマツ・トドマツ・カラマツなどの北海道の木100パーセントでつくりました。
データの中で私が嬉しかったのは、カラマツのヤニの匂いが、鮮明にデータに表れていたことです。
私の家づくりの基本に則った建物ですから、周辺の環境と相まって、化学物質過敏症の方はきっと正常になると信じておりました。
正常な家づくりをすれば、異常な化学物質過敏症も正常になる。
異常な家づくりをすれば異常なものはもっと異常になる。
これは極めてわかりきった原理ではないでしょうか。
柳沢 家をつくる人たちが、このような哲学をもっていてくれれば、おそらく化学物質過敏症が、こんな大きな社会問題にはならなかったと思います。
しかしながら現実には数多い患者が出ている。
そこで化学物質過敏症にかかわる訴訟が全国で起きている。その現状について、秋野弁護士に聞いてみましょう。
秋野 現在日本で、真面目にシックハウスに関する裁判が行われているものは10件程度です。
そのほか相談件数としてあるのは年間100件以上と言われています。
裁判になっていない残りの90件の人はどうしているのかと申しますと、現状は泣き寝入りを強いられているということです。
訴訟どころではない。
自分の体を治すのに一生懸命というのが、現状ではないかと思っています。
現に裁判所の対応ですが、化学物質過敏症で争った場合の勝訴判決は1件も出ていません。
むしろ逆に敗訴した判決が1件あって、これがリーディングケースになっています。
ただここで強調したいのは、現在このシックハウス問題が社会問題化しておりまして、私がおります東京地方裁判所でも合議体といって普通一人しか裁判官がつかないものが、三人つくことになっています。裁判所としても、この問題に真剣に取り組もうという態度の表れです。ではどう闘っていけばいいのかという点につきましては、これは長い話になってしまいますので、今回、私がこのシンポジウムに際しましてまとめました『シックハウス訴訟の起こし方』という本を旭川市に寄贈させていただきましたので、被害に遭われてどうすればいいかわからないという方は、ぜひ旭川市からいただいてほしいと思います。
シックハウス訴訟については、初めての本だと思います。
化学物質過敏症になってしまった方が裁判をすれば、どういう請求をハウスメーカーにすることができるかと申しますと、まず請求できる費用は治療関係費です。
治療関係費で問題になるのは転地療法費用ですが、実は昭和53年にこれを認める判決が出ています。
但し医師による明確な指示があった場合と、治療上有効かつ必要だと判断された場合のみ、相手側に請求できるわけです。
この二つの要件を満たす方は、地方からこういう旭川の住宅に転地する費用が、相手方に請求できるわけです。
認められるか認められないか、つまり勝てるか勝てないか不安のある方は、弁護士に相談されるといいと思います。
あとは、化学物質に汚染された建物に住んでいられない場合、代替建物の賃借料やホテル代なども請求することができます。
また裁判で争うとなると室内の調査鑑定が必要になりますが、そういう費用も請求できますし、弁護費用等も請求できます。
私たちが今いちばん課題にしているのは、逸失利益と慰謝料の算定です。
私が立てている理論は、化学物質過敏症になってしまうと、当然労働能力が失われます。
私たち法律家としては多くのデータが欲しいのですが、後遺症による逸失利益の算定基準がありますし、化学物質過敏症になってしまうと、著しい調整機能障害と運動障害が残るであろうということから、労働能力が100分の20つまり5分の1は減少してしまうと主張するわけです。
そして67歳までは働けると仮定しまして逸失利益の計算をします。
普通の裁判なら100万とか200万という請求の仕方をするのですが、私のやり方でいけば1,OOO万円を下る請求金額はないわけです。
まだまだ検討が必要な点はありますが、詳細な考え方については「シックハウス訴訟の起こし方」をご参考にしていただきたい思います。