・柳沢 このご夫婦のケースは、私の経験の中ではまだまだ軽いほうです。
つまり調子が悪くなってお医者さんに見てもらったところ、はじめは「化学物質過敏症の可能性がある。
まず家から出なさい」と言われたわけです。
ですからまだ、吸っている期間は短かったんです。
もっと重いケースで苦しんでいる人の中には、実際に化学物質過敏症だと診断されるまでに、2年も3年もかかってしまっている人もいます。
この間に症状はどんどん悪くなっていきますし、また気分的にも落ち込んでしまいます。
現在、化学物質過敏症に対する話題が広まってきたことによって、医師をはじめいろいろな人の理解が噌してきました。
そして状況はよくなってきたと思います。しかしながら患者さんの数はますます増えてきました。
今回、こういう住宅ができたわけですが、確かに化学物質過敏症の方にこの家の中の空気を調べていただくことはいちばんいいわけです。
それと同時に、その家の中にどういう物質があるのか、それを科学的に測定しましたのでその結果をご紹介します。
分析は、第三者機関として北海道の衛生研究所で行ってもらいました。
ホルムアルデヒドの濃度は、ppmとかppbという単位で表しますが、それは難しいので、一つの例を挙げます。
北海道の人口は約600万人です。ppmというのは100万分の1ですから、北海道の全人口のうち6人が北海道の人口の1ppmということになります。
ではその1000分の1、それがppbですから、世界の人口60億人のうちの6人、つまり10億分の1が1ppbということになります。このくらい低い濃度なんです。厚生省が定めたガイドラインは、80ppb。つまり10億分の80程度がのぞましいということになります。
それで今回つくった化学物質過敏症のための住宅の実際の濃度は、1階から3階まで全部計りましたが、だいたい10ppbくらいでした。
つくる時に化学物質による悪影響が出ないように注意してつくったわけですが、実際には自然界からもたくさん出てくるわけです。
そういうものが集まって、こういう濃度になったのだと思います。
次に接着剤とか塗料に含まれるトルエンですが、これもガイドラインから比べると、ほとんど無視してもよい数値になりました。
またキシレンはもっと低い数値です。
木工用の接着剤を溶かす液に含まれるエチルベンゼンについても、問題なく低い数値です。
発泡材などの原料になるスチレンはほとんどゼロに近い数値です。
次に防虫剤に含まれるパラジクロロベンゼン。
これは完壁にゼロに近いものでした。
この住宅は自然の木材をたいへん多く使っていますから、その結果室内で見つかった揮発性炭化水素の全体は、高いところで1立方メートルあた250μg、低いところで150μgでした。
望ましいと言われている基準値は400μgですから、それより低いわけです。
それから自然起源のもので例えばピネン。
これは針葉樹の匂いですが、これは北海道のマツ材を使っていますからそこから出ているものと考えられます。
それからリモネ。これはミカンやレモンの香りです。
それがこのくらい。住宅が古くなるとこういうピネンとかリモネは出なくなります。
ですからトータルVOCで考えても非常に低い住宅になっているわけです。
これが実際にここ旭川につくられたわけです。
それではパネリストの皆さんにお語を聞くことにしましょう。
このようにきれいな室内環境の家をつくるということは、技術的に可能なんです。
またコスト面から見ても、特別に高くなっているわけではありません。
東京で建てる家の平均とそれほど変わらないのです。
それなのに現実には化学物質過敏症がどんどん増えています。
これは家をつくる側の考え方の違いです。
この家をつくられた「木の城たいせつ」の山口創業オーナーに、こういう家をつくる哲学というか、視点についてお聞きしましょう。