・ 今日、ご参加された方の中には建築関係の方もいらっしゃると思いますが、患者さんが訴える症状について、ある程度知っていただく必要がある。
それで、代表的な3つの化学物質について、慢性中毒の症状をご紹介いたします。
まず、トルエン。
急性中毒はシンナー遊びをする子供の症状と同じです。
慢性中毒では、まず震えが出る。
まっすぐ歩けないとか、ぐらぐらして倒れる。
最後に失明します。
次にホルムアルデヒドですが、葬祭場を例にお話します。
葬儀の時、皆さんは、パラジクロロベンゼンなどが詰まっている箱から礼服を出し、奥さんも着物を取り出して着て行きます。
会場では、線香もどんどん焚いている。線香は固めている糊や材料が問題。それからご遺体を保存するのにホルマリンが使われており、その濃度も高い。患者が行くと、会場の入り口で倒れてしまうほどで、このことを訴える患者さんがひじょうに多いです。
ホルムアルデヒドの影響で患者さん方が訴えることは、まず胸が締め付けられる。
しかし、心臓を検査しても心臓は問題ない。
それから突然鼻血がでるなどの鼻出血、攻撃的になる。
この3つの症状がホルムアルデヒドの最も主要なものです。
攻撃的になるのも、良い方が突然、性格の悪い人になったり、いろいろな人と喧嘩をし、精神的に不安定になるなど、想像を絶するものです。
私たちも患者さんを見ていて、反応からこれはホルムアルデヒドのせいだなとすぐに分かります。
最後にクロルピリフォスについてですが、この有機リン剤の慢性中毒では、嘔吐、胃痛、下肢感覚のしびれなどや、胃が痛い、下痢をするなど消化器の症状があります。
そして、光がまぶしい、精神的に不安定になる、落ち着かない、ホルムアルデヒドとはちょっと違います。
最初は神経精神的にぽやっとして、分裂病ではないかと言われたりします。
そして、神経麻痺、最後には失明する例があります。
この3つを知っているだけで、患者さんの家に行った時に、「ああこれだな」ということが分かると思います。
化学物質の微量中毒の難しさは、同じ状況下でも個人によりまったく違った症状を表します。
3人の学生がフェンチオンとディププテレクスという有機リン剤50ppb以下で、週2、3日ラットの実験を行っていました。
あるひとは下痢、別の人は頭痛がひどい。
それぞれ症状が全然違うので、医師は3人とも違う病気ではないかと思いました。
また、ある人は立ちくらみと胸痛、ある人は下痢、吐き気、寝汗を訴える。
ある人は頭痛で不眠症と生理痛。これらは全部違います。
しかし、これらの患者に共通するのは、明るいところに入っても瞳が大きくならない。
通常、若者はだいたい6ミリありますが、患者は3ミリくらいです。
光を当て続けると、サリン中毒とまったく同じ状態になります。人為的に光を当て続けると神経末端からアセチルコリンという物質がでます。
有機リンはその受容体を ブロックしますから、アセチルコリンが分解できず瞳が開けないのです。
中毒の人がトンネルに入って、明るいところに出た時に瞳が急に縮む。
それから車が光を背にして走るようになると、ふつうの人ならば瞳がもとに戻り、開くのですが、瞳が小さいまま元に戻らない。
そうなると真っ暗で、暗い状態で運転することになり、事故になってしまうことがあるのです。
各物質によっていろいろな診断法があり、患者さんを判別します。
前記のように、有機リンが原因の場合は瞳の状態からすぐに判別できますが、診断が難しい場合も多い。
以前、タイタニックという映画が話題になりましたが、診断が難しいケースは、大部分が毎面下に隠れた氷山にぶつかってしまうようなものです。