・○楊井 ところで、先ほど、低周波音でどうしても原因が分からないのは耳鳴りではないかという発言がありましたが、耳鳴りと低周波音を混同するケースについてはいかがですか。
○落合 低音型の耳鳴りを低周波音と混同するというケースは、オランダのグロニンゲン大学のG.P.ファン.デン.ベルグ教授が発表しており、最近入手したイギリスのある自治体の騒音測定マニュアルでも、被害を訴える人が1人だけというケースでは耳鳴りの可能性を検討すべきとしています。
私も以前学会で「耳鳴りとの混同がありうる」という話を初めて聞いた時にはそんなことはないであろうと思いました。
その後、筑波の産業技術総合研究所(産総研)の犬飼先生からも、いくつかの事例を根拠としてその可能性の指摘があり、最近では、どうもそういう事例があるらしいと思っています。
○塩田 今まで、低周波音の防止対策は、工学的な側面による方法により実施してきました。
これは、苦情の内容が、物的なガタツキによる場合が多かったためです。
ご存じのように、物的被害から心身的な被害へシフトし始めてから、非常に個人的な苦情へ変化し始めてきたことを感じております。
このため、発生源と苦情者の訴える音圧レベルや周波数特性が、非常に重要な情報となってきました。
更に、暗騒音レベルとそれほど変らない低い音かつ連続的で時に衝撃性を伴うような音により、影響を訴える方々が増えてきております。
その中で、お話にもありましたように、複数以上の方々からの訴えには、発生源との対応が一致する場合があり、個人の場合には、発生源との対応が一致する場合と不一致の場合があり、困難を極めております。NHKの番組で、低周波音を取り上げておりました。
その中で、「耳鳴りのメカニズム」について、若干触れておりましたが、まだまだ不明なことが多い印象を受けました。犬飼先生の話では、実験の際、実験条件から、それは耳鳴りではないかとの指摘に対して、かなり年配の男性の方で「耳鳴り」を認めたと言うことを聞きましたが、このようなことは少ないと言うことでした。
○針塚 私も落合先生からの紹介で犬飼先生からいろいろとお話を伺う機会があったのですが、犬飼先生によると、低周波音被害を訴える人たちを実験室で調べたところ、何人かが低周波音域の感覚閾値が相当に高い、つまり、普通の人より低周波音域が聞こえていないということ、その人たちは、音のない無響室で低周波音が聞こえると述べていたこと、その人たちが被害として訴えるレベルの低周波音は、被害があるという場所では測定されていないことから、耳鳴りである可能性が極めて高いと認められたとのお話でした。
しかし、本人たちは耳鳴りであることをなかなか認めてくれないともおっしゃっていました。
そこで、耳鳴りの専門家として高名なお医者さんに「耳鳴りと低周波音を混同する可能性があるのでしょうか」と聴きに行ったのですが、「耳鼻科では125ヘルツから8,000ヘルツの周波数域で検査しているので、低周波音域の耳鳴りがあるという例はあるかも知れないけれども、検査しにくいだろうし、事例としても聴いたことがない。」とおっしゃっていました。
医学の世界では、この問題について、まだ研究されていないようです。
○落合 確かに、低周波音域の耳鳴りというのもあるらしいのですが、あるかどうかを検査できる施設は、国内では筑波の産総研をはじめ非常に数は限られていると思います。
原因が耳鳴りらしいケースでは、相手方が莫大なお金をかけて対策を講じても苦情がやまない。
そういう例も実際にありますから、遠方の方には難しいかもしれませんが、被害を訴えるのが1人だけというケースでは、なるべくこの検査を受けてもらうのが良いと思います。
本当は、耳鼻科のお医者さんの協力を得て、一緒に研究するとよいでしょう。
○針塚 関心を持って取り組んでくれる耳鼻科の先生がいるとよいのですが。