・また、停留精巣とは、睾丸が腹腔から下りてこないで腹腔内に留まってしまう病気で、やはりエストロゲン様物質によってインスリン様ホルモンが不足するために、精巣導帯が十分に伸びないことにも起因する。
これらの疾患は同時に他の男性機能の低下とも連動することが多い。精子数の傾向については、これまで多くの議論がなされてきたが、アメリカでもやはり減っていると認識された。
さらに、精巣腫瘍も先進諸国で増加傾向でもある。
緒方先生の本題は、疾患の遺伝的感受性の研究である。
わずかな量の化学物質を同じように被曝しても、発症する人と発症しない人がいることは良く知られているが、そのために化学物質の影響を確立できず、影響が無いかのごとく結論されてしまうことが多い。
そこで、なぜ感受性にバラつきがあるのかをテーマとして研究している。主要な環境ホルモンは女性ホルモン(エストロゲン)様物質であることから、これらが体内に入ったとき結合するエストロゲン受容体(ER)に着目する。
エストロゲン受容体はとくに感度がよく、エストロゲン様物質とも結合する。そして、何が個人の遺伝的素因をきめているかといえば、それはER遺伝に特異的な塩基配列(ミニ知識参照)パターンである。ヒトの遺伝子はすでに解読されているので、ERタンパクを暗号化している遺伝子の配列(らせん状分子についている特長的な塩基部分)の中で病気と関連が深いと考えられている配列部分のさまざまな塩基の違い(バラツキ、多型)を調べた。
停留精巣の子どもとそうでない子ども、尿道下裂とそうでない子どもについて比較解析(ハプロタイプ解析)したところ、配列の一定部分(ブロック)にはっきりした差が見られた。
解析法は複雑でここに正しく報告することは難しいが、健康な人との差が大きいブロックの出現頻度は、停留精巣の子どもで7.5倍、尿道下列の子どもでは13.75倍だったという。
このように大きな差のある指標を見つけられた意義は大きく、化学物質が環境ホルモンとして働くか否かを判定する道が一つ開けたといえよう。