・ さらに、BPA、BPB、BPE、BPF、BPP及びMBBOのin vivoでのエストロゲン作用を確認するために、雄メダカ成魚の肝臓中エストロゲン応答遺伝子(ER-α、ER-β、VTG1及びVTG2)発現を調査した結果BPA:8mg/L、BPB:0.250mg/L、BPE:8mg/L、BPP:2mg/LでER-α及びVTG1の有意な発現誘導がみられた。
BPPはメダカ肝臓において代謝活性化され、エストロゲン作用が増大することも考えられ今後詳細に検討が必要と考えている。
また、MBBOもin vitro試験においてBPAよりも約18倍程度高いエストロゲン活性を示し、in vivo試験においてもエストロゲン応答遺伝子発現の上昇傾向がみられたことから留意する必要があろう。
今回調査したBPA、BPB、BPE、BPF、BPP及びMBBOはエストロゲン活性を有し、一部の化合物はBPAと比較して強い急性毒性及びエストロゲン活性を示すことが明らかとなった。
これらBPA関連化合物の生態影響及びエストロゲン作用の有無についての知見は少ないが、BPA含有水の排水処理過程や塩素処理で塩素化BPA、果物ホモジネート中で生成する水酸化BPAなどのBPA関連化合物の生成が知られている。
今後、MBP以外のBPAの代謝物や混入物についても生理活性のみならずその生分解性や蓄積性を含め環境中における挙動を調べその環境負荷量を確かめる必要があるかもしれない。
●メダカの胚・仔魚へ及ぼすエストロゲン化合物の複合影響
著者らはメダカを用いて、BPAに加え環境中でもしばしば検出するエストロゲン様物質オクチルフェノール(OP)及びエストラジオール-17β(E2)の3種の化学物質を用いエストロゲン活性を持つ化学物質の複合影響評価をメダカの初期生活段階である胚・仔魚へ及ぼす複合毒性影響試験を行った。
単独曝露試験から得られたそれぞれのLC50値(BPA:15mg/L、OP:0.5mg/L、E2:1.2mg/L)を、BPA+E2、BPA+OP及びE2+OPと2物質ずつの組み合わせで100:0、75:25、50:50、25:75、0:100(%)の混合比で複合毒性試験を行い、受精後12時間以内の胚を用いて各混合比で14日間の単独曝露を行い、24時間ごとにふ化及び死亡を観察した。
その結果、BPA-OPの組み合わせにおいて相加的な作用を示しBPA-E2、E2+OPの組み合わせでは、相加以下の作用を示した。
また、仔魚を用いた複合毒性試験では、孵化後24時間以内の仔魚を用いて、各物質の96h-LC50値(BPA:13.9mg/L、OP:0.7mg/L、E2:3.4mg/L)に相当する溶液を胚と同様の比率で混合し、96時間の単独曝露を行った。
24時間ごとに死亡の観察を行い、14日目までの死亡率をグラフにプロットし、曝露後の各混合比における死亡率の結果をプロットしたグラフの形状から評価した。
その結果、BPA-OPの組み合わせにおいて、相加以下の作用を示し、BPA-E2、E2+OPの組み合わせでは、相加以上の作用を示した。
エストロゲン化合物の複合毒性は胚で相加以下の作用を示し、仔魚においては相加以上と胚と仔魚で全く逆の効果がみられ、メダカ初期生活段階であってもその生育ステージで全く異なっている可能性が示唆された。
●最後に
一般市民の要望に呼応する形で推進された内分泌撹乱関連の産官学の多くの取り組みの成果の有益な情報は、肝心の一般市民には十分に理解できる形で情報提供されておらず正当に評価されているかは疑問である。加えて、内分泌撹乱物質問題がもたらした成果として、以前に比べて格段に資質向上した市民の化学物質への知識・意識向上があるにもかかわらず、BPA以上に憂慮されるBPA類似化合物やBPA代謝物、さらに内分泌撹乱に関する新規の化学物質群の集積されたリスク情報群については、市民へのリスクコミュニケーションは皆無の状況に近い。
今後、いかに内分泌撹乱作用についてのup to dateな化学物質のリスク情報を市民へ情報提供し、市民や生態系を守る行政のリスク管理へ寄与できるのか、新らたな産官学の取り組みは今後の大きな課題であろう。
(ありぞの こうじ:薬剤師、薬学博士、環境共生学部食環境安全性学講座)