・著者らはメダカ受精卵を用いた胚の孵化阻害・遅延試験(受精後12時間以内の胚を用いて各化学物質による14日間の単独曝露を行い、24時間ごとにふ化及び死亡を観察し、14日目までの死亡率から14d-LC50値を算出)やメダカ仔魚を用いた96時間50%致死(LC50)影響試験(孵化後24時間以内の仔魚を用いて各化学物質による96時間の単独曝露を行い、96時間後の生存率から96h-LC50値を算出)を行い、MBPはBPAと比較してそれぞれ約10倍及び5倍程度高い生態毒性を示すことを確認している。
併せてMBPはオスメダカ肝臓VTG産生能についてもBPAと比較して約250倍強くより高い生物濃縮能も持つこと、センチュウ致死影響試験でも、BPAに比して MBPの生態毒性が強い事実も見出した。
一方で、MBPが光により容易に分解されることも明らかにした。
この事実からBPA代謝物のリスク評価として、MBP光分解生成物の生態系への影響を考慮すべきと考えられるが現在のところその情報は皆無である。MBPは過去にBPAの工業原料へ混入していた可能性も指摘されており、BPAより強い生理活性をもつMBPが直接性体内へ取り込まれていた可能性や憂慮されているBPAの生物活性がその微量混入物に起因している可能性も否定できない。
●BPA類似化合物および光分解生成物のエストロゲン活性
BPF、BPE、BPB、BPPなどBPA類似化合物がBPA代替物として用いられているが、これら化合物群の毒性影響評価やエストロゲン作用など生物活性については知見が少ない。
そこで、我々はBPA関連化合物(BPB、BPE、BPF、BPP)及び前述した光分解生成物3-メチル-1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン-1-ワン(MBBO)の生態影響評価(メダカ初期生活段階の胚及び仔魚を用いた毒性影響)を行った。
加えて、エストロゲン活性を酵母two-hybrid法によるin vitro試験及び雄成魚における肝臓中エストロゲン応答遺伝子を指標としたin vivo試験(生物個体を用いた試験)から評価した。
メダカ胚孵化阻害・遅延試験では、14d-LC50値はそれぞれ、BPA:14.8mg/L、BPB:7.4mg/L、BPE:26.0mg/L、BPF:28.6mg/L及びBPP:2.8mg/Lと算出され、メダカ仔魚96時間急性毒性試験では、96h-LC50値はそれぞれ、BPA:13.9mg/L、BPB:6.1mg/L、BPE:13.9mg/L、BPF:13.3mg/L 及びBPP:2.3mg/Lと算出された。
これらの結果より、BPP>BPB>BPA>BPE>BPFの順で強い魚毒性を示した。BPA関連化合物の構造は、BPF、BPE、BPB、BPPの順でメチル基が1つずつ増えており、魚生態毒性影響はメチル基数が増加するほど強くなることが示唆された。
メダカERα遺伝子を組み込んだ組み換え酵母を用いた酵母two-hybrid法によるエストロゲン活性試験でECx10値を算出し、これらECx10値の逆数からE2のエストロゲン活性値を100として相対活性値を算出した。
結果は、BPF>BPB>BPA>BPP>BPEの順であり、BPF及びBPBはBPAと比較して2倍程度強いエストロゲン活性を示した。ヒトERα遺伝子を組み込んだ組み換え酵母では、BPB>BPP≧BPA、BPE、BPFの順で強いエストロゲン活性を示すことが報告されていることから、ヒトとメダカではERα受容体に対するエストロゲン活性には種間差がみられた。
また、メダカERαでのMBBOのECx10値は12.5 ng/mL、相対活性値は:1.10と算出され、BPAと比較して18倍程度強いエストロゲン活性を示すことが明らかとなった。