・ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議より
http://www.kokumin-kaigi.org/kokumin01.html
・ニュースレター 第41号 (2006年6月発行)
連載第1回:【環境ホルモン研究の最先端】
BPA類似化合物の生態毒性とエストロゲン活性の複合作用
熊本県立大学教授 有薗 幸司
●はじめに
ビスフェノールA(BPA、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)は、年間約40~50万t製造・輸入され、そのうちの約9割がポリカーボネート樹脂とエポキシ樹脂の合成原料として用いられている。
その他にポリエステル樹脂の中間体、難燃剤の合成原料、塩化ビニル樹脂の添加剤等に用いられている。
BPAを使用したポリカーボネート樹脂は、CDやDVDの基盤などのOA・光学用途、道路の防音壁などのシート・フィルム用途等に、またポキシ樹脂は塗料や接着剤等に用いられ、BPAを合成原料とした製品は非常に広範囲に用いられている。
そのため、BPAは食物及び水環境中広範囲に検出され、エストロゲン作用をはじめとした多くの生物活性が報告されている。
このBPAに対して、法律等による規制や管理促進が行われている。
平成13年に施行された特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律では、BPAは生産量と生態への影響を理由に、第一種指定化学物質とされ、排出量および移動量の届出、化学物質等安全データシート (以下、MSDS:Material Safety Data Sheet) の提供が義務づけられた。
また、同法第3条に基づき、「指定化学物質等取扱い事業者が講ずべき第一種指定化学物質等及び第二種指定化学物質等の管理に係る措置に関する指針」が公表され、関連する事業者はこれに留意して化学物質管理の措置を講じることが求められている。
また厚生省(現厚生労働省)からは、平成6年1月に食品衛生法第10条に基づき、「食品、添加物等の規格基準の一部改正について」の通知が告示され、ポリカーボネート樹脂からのBPA (フェノール及びp-t-ブチルフェノールを含む)の溶出限度としての規格基準が2.5ppmに規定された。また、同通知により、材質試験(材質中に含まれる量をはかるもの)におけるBPA(フェノール及びp-t-ブチルフェノールを含む)の基準値は500ppmに規定されている。
近年、代替物としてBPAと構造の類似した化合物(BPA関連化合物)も利用されているが前述したようにBPA関連化合物の製造は年々増加しているため、そのリスク管理が進められているが水環境中へのこれらの化合物群の排出量は増加することが憂慮され、広範囲で検出される環境化学物質となることが危惧される。
環境中には様々な化学物質が混在し、水環境中でも水生生物は複数の化学物質に同時に曝露される可能性も考えられる。
多くの環境化学物質は単独では生体に影響を及ぼさない濃度であっても、複合されることによって生体へ悪影響を及ぼす可能性は十分考えられる。
イボニシのインポセックス(有機スズ)、ローチの雌雄同体化(ノニルフェノール・エストラジオール)、アリゲーターのペニスの矯小化(ジコホール:有機塩素化合物)のような特有の化学物質に起因するとされる生態異常、生殖異常の報告例は数多いが、これら化学物質の複合影響に関する知見は乏しいのが現状である。
本稿ではメダカを用いたBPAとBPA関連化合物群の生態毒性について複合影響を含めて著者らの研究を概説する。
●BPAとBPA活性代謝物
BPAは成熟した生体に入ると、通常は水溶性を高めるためグルクロン酸抱合体となり尿から体外に排出されるとされている。
しかし、ラットの肝臓成分を用いたin vitro試験(生体内を模倣した試験管内試験)でBPAの代謝物のエストロゲン活性がBPAの数倍に増加する事実をもとに、グルクロン酸代謝経路が未発達なラットやヒトの胎児においては、BPAはそのままか活性代謝物に構造変化する可能性が指摘されている。
この活性代謝物は4-メチル-2,4-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ペント-1-エン(MBP)と同定され、単独でBPAの数百倍から数千倍のエストロゲン活性を示すことがヒトのエストロゲン受容体を発現させた形質転換酵母やヒト乳がん由来細胞MCF-7を用いたレポーター・アッセイなど数種のin vitro評価法によって明らかにされている。
表1(省略)
runより:考えたのですが表は全て英文だったので省略しました。