・東京都健康安全研究センター環境保健部生体影響研究科より
・B-3-d-4.ケポン(Kepone)
1)ヒトの健康影響に関連する情報
1974~1975年にかけ米国のバージニア州のケポン製造工場で,従業員および工場周辺の環境に影響をおよぼす大規模な暴露事故があった1).
上記暴露事故による主な症状は,振顫,眼間代,関節および胸膜の痛み,精子数の減少であった.血中の半減期は165日で,6年後の調査では血中からは検出されず,脂肪組織にわずかに残存が認められた2).
分子構造はエストラジオールに似ていないが,弱いエストラジオール様の作用がある3).
2)内分泌系・発生過程に対する影響
ニワトリ雌に kepone 12.5mg/日を3日間腹腔内投与または500-2000ppm 添加飼料を3-16日間摂取させると kepone はオバルブミン及びコナルブミン合成を誘導した.またトリチウムラベルエストラジオールの核内エストロゲンレセプターへの取り込みにおいてエストラジオールと競合し,抗エストロゲンの tamoxifen によって拮抗された4).
日本ウズラ雌雄に kepone 10-200ppm 添加飼料を摂取させた時,雌卵巣重量の用量に伴う増加と雄200ppm 摂取で精巣重量の増加を認めた.マウス雌の生後1-10日に kepone 30-250μg/kg/日投与で生殖管重量が増加した5).
Swiss-Webster マウス新生児に kepone 0.15,0.03,0.06,0.125mg/kg を10回皮下投与.膣上皮の肥厚,子宮細胞肥大・増殖を認めた.これらの変化はエストラジオールによって誘発された変化と同じ6).
SD 雄ラットの100日齢に kepone 0,5,15,30ppm 添加飼料を90日間摂取させた実験で生殖行動および雄性器の組織に変化を認めなかったが,15,30ppm 群で精巣上体の精子活動と運動能の可逆的低下を認めた7).
F344卵巣摘出ラットに kepone 10,25,50,75mg/kg を腹腔内投与.50mg/kg 以上の群で発情の継続性が高まる8).
Holtzman ラット幼若雌 (20-24日齢) に kepone 6-50mg/kg/日を3日間皮下投与.レセプター部位の転移,プロゲステロンレセプターの合成を刺激9).
CD-1マウスの妊娠8日に kepone 0,110,125mg/kg を経口投与.吸収胚の増加,化骨遅延,奇形児増加10).
CD ラットの妊娠7-16日に kepone 2,6,10mg/kg を経口投与した時,10mg/kg 群で胎児の腎盂拡大,精巣下降不全,脳室の拡張が有意に増加した.CD-1マウスの妊娠7-16日に kepone 2,4,8,12mg/kg 経口投与では12mg/kg 群での死亡胎児増加,彎曲足をもった胎児が発現した11).
総説;環境中の内分泌かく乱作用が疑われる物質の簡単なリストが載っている12).