・4.4.4 神経網とシグナル検出
前項では、個々の神経線維を刺激するための閾値の推定について述べた。但し、神経系それ自体は、原則として化学的な「接合部」またはシナプスを介して互いに通じている、神経細胞のネットワークで構成されている。
シナプスでは、シナプス前端から放出される神経伝達物質がシナプス後細胞上の特定の受容体分子と結合しており、これは通常は一方通行のプロセスで
ある。
神経伝達物質による受容体の活性化は、各種のシナプス後応答を引き起こす可能性があり、その多くは結果的に特定の種類のイオンチャネルを開放する確率を変化させる。
そのような神経網は複雑な非線形の力学を有すると考えられ、神経網の構成要素全体に拡散的に印加される小さな電圧に対しても、感受性が非常に高い可能性がある。
本質的に、ノイズがランダムに加えられる場合、S/N 比は改善されるが、シグナルはコヒーレントに加えられる。
神経網の感受性の理論的な基礎は、サメやその他の軟骨魚類による弱い電界の探知を考慮し、調査された。
これらの魚は、ロレンツィーニ器官の「検出器」細胞に200nV のオーダーの僅かな電位差を生じる、0.5μVm-1 程度の弱い海水中電界に対して行動学的に反応できることが知られている。Adair(2001)は、そのような弱いシグナルでも、単一の二次ニューロンに収束する約5000 個の感覚検出細胞が同時に検出すれば、100ms 以内に1 より大きいS/N 比を生じるだろうと示唆している。同時検出は、特定の神経伝達物質受容体の特性である(Hille、2001)。
そのような収束は、感覚器系に共通する特性である;環境中の刺激を検出できるような感受性を最大化するような進化の圧力が存在する。
例えば、哺乳類の網膜の周縁部では、最大で1000個の杆細胞が1 つの神経節(網膜出力)細胞に集中している
加えて、脳の機能は相互作用している非常に多くのニューロンの総体的な活動に依存している。
電磁界が神経系の機能および行動に及ぼす影響は5 章で述べる。
但し、ヒトの神経網の感受性の下限値は1mVm-1 前後と推定されている
下限値に近い値は、弱電界に対する感受性についての2003 年ICNIRP/WHO ワークショップで同意が得られている。
ヒトの眼内閃光応答のモデリング、および脳組織の機能に関する神経生理学的研究から、そのような閾値は10~100mVm-1 の範囲にある可能性が高いと示唆されている