・2.ポリ臭化ビフェニール類(Polybrominated biphenyls, PBB)
1)ヒトの健康影響に関連する情報
1973 年に米国のミシガン州で,家畜の飼料に PBB が混入するという事故が発生した.
飼料を食べ,汚染された家畜から酪農製品等を介して食物連鎖が起こり,ヒトへの人体汚染が広がった.PBB の蓄積と移行を調べたところ,血清と脂肪中のレベルに相関がみられた.胎児や新生児への影響に関しては,さい帯血に母親の血清で検出された濃度の10%が存在したため,胎盤通過の可能性を認めた.母乳での濃度は,血清濃度の107-119 倍の高値を呈した1).
ミシガン州の4歳児の子供285 名の血清中に13 から21%の割合で PBB の蓄積がみられ,母乳がその主な暴露源である2).妊娠中や幼児期に PBB の暴露を受けた19 名のミシガンの子供達に成長への影響が指摘された3).
事故発生から10 年後の高濃度暴露を受けた地域で死亡例の組織内での PBB の蓄積を調べた.腎臓周囲の脂肪に平均475ng/g の高い蓄積を認め,副腎や動脈,胸腺では,その半分の値を示した.半減期は少なくとも7.8 年と推測された4).
ミシガンで暴露を受けたヒトの発癌と血中 PBB 濃度の関連を調べると消化器系癌とリンパ腫で高い血清濃度を示し,用量反応関係で増加がみられた5).
163 名のミシガンで暴露を受けた居住者の血清濃度の中央値は,45.5ppb であり,半減期は10.8 年と推定された.その結果,1ppb 以下に血清濃度が下がるにははじめの暴露から60 年を要する6).
総説としての文献がある7,8).
2)内分泌系・発生過程に対する影響
SD ラット雌に PCB (Aroclor 1254) および PBB (Fire Master BP-6) を各々0,1,5,
10,50ppm の割合で噴霧した飼料を5-7 ヶ月間摂取させた.血清中トリヨードサイロニン(T3) ,サイロキシン (T4) レベルは PCB,PBB 共に用量相関性を持って抑制され,それは TSH 投与により減弱した.トリチウムラベル T4 の消失速度は PCB,PBB 投与により延長された9).
ブタの妊娠第2期半から授乳期に PBB 0,10,100,200mg/kg 添加飼料を摂取.PBB の胎盤通過を確認した.しかし PBB の子への移行量は母乳を介した方が多かった. 10mg/kg摂取でアルカリフォスファターゼ,アラニンアミノトランスフェラーゼ,サイロイドホルモンの増加を示したが,100,200mg/kg 摂取では反対に減少した.また新生児の甲状腺腫瘍の増加及び4 週齢の子の肝重量の増加を認めた10).Shermann ラットの妊娠7と14 日に PBB 200mg/kg を経口投与し出産後2 年間経時的に観察.PBB 投与群で体重抑制,死亡率増加,肝の腫瘍(結節)増加を認めた11).