・3) 動物実験と細胞実験
3)-1 動物実験による発がん性試験
携帯電話からの高周波電磁界の発がん性については、多くの議論がなされているが、発がん性を示唆する直接的な研究報告はほとんどなく、Repacholiらの報告(1997)がほとんど唯一の報告である。
この研究では、遺伝子操作によりイニシエートしたマウス(Eμ-Pim1トランスジェニックマウス)計201匹(2群)に、18ヶ月間にわたり800 MHz帯のGSM規格(欧州を中心に世界各国で使われているディジタル方式)の電波を全身に照射したとき、リンパ腫が約2.4倍に増加したというものである。
しかし、この実験では曝露条件がよく管理されておらず、全身平均SARが0.08-4.2W/kgの間であったという情報しかない。
また、本来は10ヶ月以下の短期間で発がん性試験を行うために開発されたEμ-Pim1マウスに18ヶ月もの試験を行うことが妥当であるか、とう問題点の指摘もある。
このため、追試によって確かめるまではこの実験結果を正しく評価できないとされてきた。
このため、オーストラリアおよび欧州(欧州連合の研究プログラムによりイタリアで実施)でより精度の高い曝露装置を用いて、同じ問題についての追試実験が行われてきた。イタリアでの実験は未報告であるが、2002年9月にオーストラリアで行われた追試研究結果が報告された(Utteridge 2002)。
Repacholiらの曝露装置がアンテナ周囲におかれたケージで自由に動けることによって曝露のばらつきが大きかったのに対し、この実験では観覧車型に配置したチューブ内でマウスを曝露することにより、一定の曝露条件を実現した。
この実験の結果では、リンパ腫の増加は見られなかった。
この研究に対して、実験のデータ処理に一部問題があるという指摘がある。
しかし、結論に影響が及ぶ重大な問題ではないようである。
他にも発がん性に関してのさまざまな動物実験が報告されている。
しかしいずれも携帯電話からの電磁波ががんを増加させるという結果は得られていない(Takahashi 2002、Imaida 2001、Bartsch 2002)。
文献(省略)