・種特異的な生物過程における重金属の動き
渡りは、種特異的であるが、渡りに際して、鳥たちは、休憩中に餌から多くの重金属を取り込む。飛行中は、絶食状態で、脂肪をどんどん燃やし、体重が減少する。したがって体中の重金属は飛行中に濃縮される。
換羽による影響も重要である。
トビの例では、6月に換羽が始まり、10月ごろ終了する。そのとき、それまで主に筋肉に蓄積していた水銀(有機)は、換羽時に生じる羽への血流によって羽に運ばれる。
換羽がすすむと筋肉など体中の水銀濃度は次第に低下する。10月に換羽が完成すると羽への血流は途絶え、餌から取り込んだ水銀は翌年の初夏まで、体中に蓄積され続ける。
毎年換羽により大量の水銀が排泄されるため、トビでは、水銀の蓄積は一定値にとどまり、年齢による上昇傾向は認められない。
換羽の順序や初列風切羽の位置や胸毛など部位による重金属の濃度の変化を測ることは鳥類にたいする毒性影響のみでなく鳥類の生態を知るのに役立つ。
得られた情報をどう見るか
野生動物の生態から得られた知識はまだまだ少ない。
人間活動のない自然状況でバックグラウンドの重金属の分布がはっきりしないと、汚染の有る無しや、汚染の強度を決めることは簡単ではない。
高濃度の汚染はともかく、重金属の長期微量の汚染とその毒性影響を議論するのはむずかしい。
かぎられた知識はまた、視点により見え方が異なることにも注意が必要である。
部分的な科学的正しさが全体では間違っていることがあるからだ。
さまざまなメディアの出す情報が、国民の側か企業の側か、どちらの側を向いているか知ることもたいせつである。
研究費の大半が製薬会社から出てくることから、研究費の出所を明らかにすることを著名な科学雑誌が要求するようになってきている。
化学物質の毒性のリスクアセスメントは、企業の側を向いているものが多い。マスメディアも自己規制している。
国民の側に立ったリスクアセスメントとそれを発信する自前のメディアが必要であろう。 〔武田玲子記〕