・◆果物、野菜の多食で発症
そんな中で3年ほど前、両医師はこんな現象にぶつかった。
----松林への農薬散布が原因と思われる中毒患者が例によって多数来院したのだが、有機燐の場合と症状に違いがある。そして、松林散布がない季節にも同様の患者が相次いだ----
患者多数の問診などで詳しく調べるうちに両医師は、メールにあるように農薬アセタミプリドで汚染された果物、野菜、緑茶などの多食と発症の関係に疑いを持ち、連名で06年から毎年日本臨床環境医学会総会などで発表し、注目された。
メールには、患者の症状も明記されている。
頭痛、めまい、吐き気、下痢とかは有機燐など他の農薬と同様だが、
「胸痛、動悸、胸部苦悶、しばしば筋脱力、短期記憶障害、小児の異常行動(多動、易興奮性)、心電図で数日から1週間の頻脈、数週間続く徐脈」
などが特徴的だ。短期記憶障害とはつい今の事をもう忘れているという症状で、頻脈、徐脈とは脈拍がやたらに激しかったり逆にゆっくりし過ぎていることを指し、命にかかわる場合もあるという。
平医師によれば、ウイルス性の感染症疾患が治りにくくなる免疫異常が、アセタミプリドの作用で起きることを示した他の研究者の論文も相次いでいるという。
◆すぐ殴るなど暴力衝動
しかし、とりわけ気持ちを暗くさせられるのはメールに「異常行動」と記されている患者の暴力衝動だ。
小児に多いがそれだけに限らないようで、特段理由もなくすぐかっとなる。暴力の相手も選ばない。
男友だちを突然殴ったが、自分でもわけがわからないという若い女性の患者もいた。
やはり急に食器を壊したり、一見普通の患者なのに内ポケットにナイフをしのばせてくる来院者もいた。
発症の機序は異なるが、人の人格を変える点は有機燐と同じで、青山医師は、「有機燐との掛け算になる」と、みる。
人の体質によって違いは大きいものの、すでに有機燐によって大きな影響を受けている日本人はアセタミプリドが加わることにより、相乗効果を受けるのだ。
汚染輸入米からほかに検出された有機燐農薬メタミドホスも他人事ではない。
中国製ギョーザ中毒事件のこの農薬は日本では非登録なので使われていないが、登録されて畑作・果樹・家庭園芸などでの殺虫に普及している有機燐農薬アセフェート(商品名は「オルトラン」など)は生体に摂取されるとメタミドホスに変わり、毒性は30倍くらいに強まる。
農地などに撒かれたアセフェートも、分解して一部はメタミドホスに変わる。
メタミドホスそのものは非登録でも、大量に使われているアセフェートが田畑、体内でメタミドホスになっているので、この強毒性の農薬は日本でも事実上登録されているに等しい状態なのだ。
従って国産の農産物からも中国などと同様にメタミドホスが、それも相当の濃度で検出されることがある。