室内空気質健康影響研究会報告書2 | 化学物質過敏症 runのブログ

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1.シックハウス症候群について

(1)健康障害の総称としてのシックハウス症候群
 これまでの用語の使用実態に鑑みると、シックハウス症候群は医学的に確立した単一の疾病というよりも、「居住者の健康を維持するという観点から問題のある住宅において見られる健康障害の総称」を意味する用語であると見なすことが妥当である。
 これまでに得られた知見によれば、(1)皮膚や眼、咽頭、気道などの皮膚・粘膜刺激症状及び(2)全身倦怠感、めまい、頭痛・頭重などの不定愁訴、が訴えの多い症状であることが示されている。その原因については、化学物質等居住環境における様々な環境因子への暴露が指摘されているが、全てが解明されるに至っていない。

(2)発症関連因子としての化学物質
 シックハウス症候群の主な発症関連因子として、建材や内装材などから放散されるホルムアルデヒドや、トルエンをはじめとする揮発性有機化合物がこれまで指摘されている。室内環境中には、ホルムアルデヒドをはじめとして、高濃度での暴露を受けた場合に、粘膜刺激症状などの健康障害を引き起こすことがある化学物質や、トルエンなどの有機溶剤のように、高濃度での暴露を受けた場合に、頭痛やめまい、さらには意識障害といった中枢神経障害を来すことがある化学物質が存在する。
 中でも、ホルムアルデヒドについては、0.08ppmという建築物衛生関係法令上の基準値が定められている。これは、環境衛生上良好な状態を維持するという観点から定められた基準であり、皮膚や粘膜に障害のない者については当該基準値をわずかに上回った濃度の暴露を受けたとしても直ちに影響が生じることはないと考えられるが、アトピー性皮膚炎や気管支喘息をはじめとするアレルギー関連疾患の既往等があり、皮膚・粘膜の防御機能に障害がある者では、当該基準値を上回る濃度での暴露が持続した場合、皮膚や粘膜の症状が増悪するおそれがある値でもある。
 また、防蟻剤として使用されてきたクロルピリホスについては、これを使用するしろあり駆除従事者への健康影響を示唆する報告がなされており、気密性の高い住宅でこれを使用し比較的高濃度での暴露が持続した場合、特に感受性の高い居住者に健康影響が生じる可能性は否定できない。
 従って、建築基準法関連法令の改正により、建材としてのホルムアルデヒドの使用が規制されるとともに、クロルピリホスの使用が禁止されたことは、これらの物質による健康障害の発生を防止する上で適切かつ重要な規制的措置であると考えられる。

(3)化学物質以外の環境因子の関与
 皮膚・粘膜刺激症状や不定愁訴を誘発する要因は必ずしも化学物質だけではない。皮膚・粘膜刺激症状はアレルギー疾患や感染症などの患者でも高頻度に認められる症状であり、また、温度、湿度及び気流等の温熱環境因子が増悪因子となりうる。
 また、全身倦怠、めまい、頭痛・頭重などの不定愁訴は、各種疾患により生じるほか、温熱環境因子、生物因子(感染症)、照度、騒音及び振動等の様々な物理的環境因子、精神的ストレスなどが発症・増悪に関連することから、化学物質が係る症状の関連因子であると判断するためには、十分な除外診断が必要である。

(4)室内濃度指針値とシックハウス症候群との関連
 「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」における指針値の策定は、指針値を満足するような建材等の使用、住宅や建物の提供が考慮されるようになったという点で大きな役割を果たしている。
 しかしながら、指針値をわずかに上回る濃度での化学物質の暴露を受けた者が、粘膜刺激症状などの症状を訴えた場合に、「シックハウス症候群」と判断される場合があるなど、当該指針値を巡って「シックハウス症候群」についての誤解も見受けられる。そもそも指針値は、化学物質により「シックハウス症候群」を引き起こす閾値を意味する値ではない。そのため、室内環境での濃度が指針値を超過していることだけをもって、直ちに、当該化学物質が症状誘発の原因であると判断することは必ずしも適当ではなく、症状誘発の関連因子を特定するためには、慎重かつ適切な臨床診断に基づく総合的な検討が必要である。