3.『シックハウス症候群に対する相談と対策マニュアル』
こうした流れの中で、前述のように、平成21年初頭に、厚労省が、各自治体や保健所などに向けて配布した『シックハウス症候群に対する相談と対策マニュアル』が波紋を呼んでいます。
厚労省は、このマニュアルを「有益なものと考えられますので活用してください」と書かれた文書とともに配布しました。しかし、各患者団体や被害支援団体は、このマニュアルについて、主として次のような問題点を指摘しています。
①「室内空気質汚染による健康被害」(シックハウス症候群、シックハウス関連病を含む)と「化学物質過敏症」を、全く重ならないものとして図示している。
②マニュアルの中で、CSの疾病概念について国内外の定義が紹介されている。
しかし、どの定義もコンセンサスが得られていないとして、疾病の存在そのものに懐疑的な論調である。
③「疾病像は自覚症状のみで、種々の検査では所見がみられず」と断定的に記述した上で、CSを「心因性疾患と考える臨床医や研究者もいます」と記載している。
瞳孔反応、眼球追従運動などの検査やそのデータの集積が全く注視されていない。
④紹介されている論文に大きな偏りがある。心因性を否定する論文の紹介がない。随所で「心因性」が強調されている。
各患者団体らは、このような問題点について厚労省に公開質問状を出しました。
これに対して、厚労省からは、「このマニュアルはあくまで研究班の知見であり、国の公式見解ではありません」といったような回答があったとのことでした。
4.今後に向けて
日本弁護士連合会では、2005年8月に、「化学物質過敏症に関する提言」という提言内容をとりまとめ、これを厚労省や関係各官庁、衆参両院議長、各政党へ提出しました(http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/2005_54.html
)。それから4
年余りが経ち、上記のとおり状況に前進はありましたが、まだ課題は山積しております。
政権与党となった民主党の政策インデックスでは、総合的な化学物質対策とともに、シックハウス症候群・CSに関する有効な治療体制の確立、都道府県ごとに長期滞在型療養施設を建設するなどの対策、被害予防のため測定を義務付けるシックハウス対策法の制定などの対策を講じることがうたわれております。
こうした諸施策の実現にも期待をしたいと思います。