診断検査1 滑動性眼球追従運動検査
これは、測定専用のゴーグルをつけて、パソコン画面上の動く目標物を追従させて検査をします[1]。
ロス警察がスピード違反のアルコール検査前にすでに取り入れていた検査方法で、大脳の機能の検査です。日本ではまだあまり取り入れられていない検査
です。
化学物質過敏症の方は、大脳辺縁系に症状が出てくるのが特徴の一つで、大脳辺縁系は、視覚や感情のコントロールに関わっている部分になります。たとえば、有機リンによる上方注視麻痺の患者は、上方向に眼球が上がりにくい特徴を有します。
後で述べる瞳孔検査と、この眼球運動の所見により、サリン事件でも早く患者が見つかり治療で助かった例がありました。
診断検査2 重心動揺検査
重心動揺計とは、体のふらつき度合いを調べる検査です。身体の重心が足の裏に投射され、その軌跡を記録する方法です。
水平な台にまっすぐに乗っていただき、1分間ずつ開眼と閉眼の記録をとります。
X-Y軸の2次元で記録します。次に水平記録の台に乗っていただき、左右のバランスを測定し次は垂直方向のブレを測ります[2]。これにより、中枢神経の異常があるか、ないかを調べられます。
有機リン系が関係している人は、横ブレが普通の人よりも多いのが特徴です。水銀中毒などでは縦か、回転性の軌跡をとるとも言われています。
もっとも、普通の人でも高齢者はブレる人もいるので、コンピューター解析をして、正常、異常の判定をします。
診断検査3 コントラスト感度・視覚空間周波数特性検査(MTF:modulation transfer function test)
MTFとは、正弦波形になっている白黒の濃淡差を認知識別させ、視覚領における識別感度(コントラスト感度)を利用して、他覚的に詳しい識別から、視力を評価する鋭敏な検査法[3] です。
米国のロスではK.Kilburn教授が、中毒、特に慢性の神経系の異常の判定に推奨しています。縞しまの線、境界線がしっかり見えるか・暗く見えるか見えないかなどを測定します。
5回くりかえし、異なる周波数でトライし、グラフを書いて判定します。このコントラスト感度で重症か否かを判断します。我々のアイデアで、水俣病の判定にも大活躍した検査法です。
診断検査4 瞳孔検査(外から見える唯一の自律神経検査)
昔から日本には、「病は眼から始まり眼に終わる」といわれています。
中国では3~4千年前から眼で病気を診断していた記録などが残されています。
私達は、世界で初めて「瞳からみた化学物質過敏症」を講演して米国で報告し、最近では国際瞳孔学会で化学物質過敏症の症例の診断法を紹介し、非常
に驚かれた経験があります(第25回国際瞳孔学会Pupil Colloquim, Proceedingsに原著)。
この検査は、新しい一つの診断ポイントになりました。 瞳孔は、光を与えてやると縮み、光を消すと広がり元の大きさに戻ります。
簡単には、縮瞳があり、散瞳があります。
縮んだ時(副交感神経)と一番広がった時(交感神経)の大きさと反応経過を測定することによって、その人はどの様に自律神経が働くかを知ることが出来ます。身体の神経の働きが、一目瞭然にわかるのです。
瞳孔を縮める筋肉は、目の周りを囲む瞳孔括約筋だけでなく、外へ引っ張るという散大筋が抑制されて小さくなる事があります。
実は、この検査で調べると、化学物質過敏症では散大筋、縮瞳筋も侵されている例が多いことがわかります。たとえば、サリンでは、瞳孔が非常に縮瞳します。
また、有機リンの空中散布を1回受けただけで、全身の異常を示した有機リン中毒の患者の方には、3カ月経っても元の位置にまで復元していなかった症例もあります。
しかし、最近の有機リン剤系ではあまり縮動しない物質もあるようです。
しかし、反応経過を分析することで、異常が検出できます。
頚部交感神経麻痺の疑いで来院した64歳の女性に瞳孔反応検査をしてみたところ、本来、瞳孔が大きくならなければいけないのに瞳孔が広がらず、実は、スミチオンが原因のシックハウス症候群であることが判明した例などがあります。
ところで、この瞳孔検査は、乳幼児に対して行うことは残念ながら難しいのです。大体、5、6歳以上で、刺激して10秒間我慢できる年齢になっていることが必要です。
ただ、赤ちゃんの場合などは、自宅で明るい所と暗い所で瞳孔の写真をデジカメで撮って医師の所に持ってきていただくと診断上有効だと思います。
目の下に定規か物差しのスケールのついたものを画面にいれてください。