シックハウス症候群診療マニュアル15 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

アレルギー疾患の鑑別
(内科・小児科)
Ⅰ はじめに
Ⅰ型アレルギーに属する気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎は、ダニの虫体や糞、真菌、ペット皮屑のような屋内環境抗原によりアレルギー反応が起こるため、建物内で症状が発症・増悪することが多く、シックハウス症候群との鑑別が必要となる。本章では、特に内科・小児科領域で問題となるアレルギー性呼吸器疾患との鑑別(表参照)について概説する。

Ⅱ 症 状
シックハウス症候群の粘膜・皮膚刺激症状のうちでアレルギー性呼吸器疾患との鑑別が問題となるのは、咳嗽、呼吸困難感であり、喘鳴は気管支喘息の合併がない限り稀である。咳嗽は主に乾性咳嗽であり、気管支喘息、咳喘息、アトピー咳嗽、喉頭アレルギー等との鑑別が必要である。呼吸困難感はあくまで自覚症状であり、客観的な検査による呼吸器疾患や神経・筋疾患との鑑別を要する
アナフィラキシーでもシックハウス症候群にみられる倦怠感、脱力感、全身の冷感等が起こり得るが、通常は食物や薬物の摂取やハチ刺傷後に生じることが多く鑑別は容易である。

Ⅲ 性別・年齢・遺伝的素因
シックハウス症候群の発症年齢は30歳代~40歳代に多く、圧倒的に女性に多いことが報告されているが、小児では報告が少なく男女差は不明である(文献1-3)。アレルギー疾患は、呼吸器系、目・鼻粘膜系、皮膚アレルギーのいずれも全ての年齢で発症するが小児に多い。男女差は、小児では男子が多く、成人では女子が多い。
気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎等は、IgEの関与するⅠ型アレルギーによるものであり、過剰なIgE抗体産生という遺伝的素因がこれらの疾患で明らかになっている(文献4)。シックハウス症候群は疫学調査が不十分ではあるが、現在のところ、その発症に遺伝的素因は証明されていない。
Ⅳ 原因物質
アレルギー反応を起こす抗原は一般的に分子量5千以上の高分子蛋白であり、屋内環境抗原としては、ダニの虫体や糞、真菌、ペット皮屑などが知られる。したがって、シックハウス症候群の原因物質である低分子の揮発性有機化合物(VOC)はアレルギー疾患の原因物質にはなりにくい。ただし稀ながら例外も存在し、室内環境中のホルムアルデヒドにより誘発された皮膚・粘膜症状、呼吸器症状の症例が報告されており、特異IgE抗体とパッチテストの陽性が確認されている(文献5)。その機序として、イソシアネートによる気管支喘息や過敏性肺炎で知られるように、ハプテンと呼ばれる低分子の不完全抗原が生体内でキャリアー蛋白に結合することによりアレルギー反応を起こした可能性がある。
Ⅴ アレルギー学的検査
1.血清総IgE値
血清総IgE値が高値であればアレルギー疾患による症状あるいはアレ
ルギー疾患の合併を疑う。
2.特異的IgE抗体
保険医療で測定可能な有機化合物に対する特異的IgE抗体測定法(CAP-RAST)として、ホルマリン、イソシアネート、エチレンオキサイド、無水フタル酸がある。前述のように、これらの暴露により症状が出現し、CAP-RASTが陽性であればシックハウス症候群ではなくアレルギー疾患を疑う。
3.皮膚反応
プリック・スクラッチテスト、皮内テスト、パッチテストは基本的にアレルギー反応の検査であるが、シックハウス症候群でも皮膚反応試験が診断に有用との報告があるがエビデンスは不十分である。
4.免疫担当細胞・サイトカイン
免疫・アレルギー疾患におけるTh1/Th2バランスに関わる細胞分画やサイトカイン測定はアレルギー疾患のスクリーニングとしては一般的ではなく、また、シックハウス症候群では有意の変動を示さない(文献6)。

Ⅵ 生理検査
1.呼吸機能検査
気管支喘息ではスパイロメトリーで閉塞性換気障害がみられ、軽症や治療中でも末梢気流制限が残存することが多い。シックハウス症候群では、このような呼吸機能障害はみられない。
2.気道過敏性試験
気管支喘息と咳喘息は気道過敏性が亢進しており、診断や長期管理の指標に用いられる。シックハウス症候群では、咳嗽や呼吸困難感の有無に関わらず気道過敏性は正常である。
3.呼気中一酸化窒素(FeNO)
気管支喘息と咳喘息では気道炎症を反映する呼気一酸化窒素が高値となり、治療により低下するが、喫煙者では低値となる。シックハウス症候群では有意の上昇は示さない。