学校の無理解により重度の化学物質過敏症を発症したとして、大阪市の入江茂弘さん(18歳)が、市に損害賠償を求めた裁判の公判が10月11日、大阪地方裁判所(平林慶一裁判長)で開かれ、発症時に通学していた市立豊里小学校の当時の校長、教頭、担任の証人尋問が行なわれた。
茂弘さんは、新築の自宅のシックハウスで体調を崩していたため、両親は学校に、ワックスやフェルトペンなど化学物質の使用から茂弘さんを遠ざけるよう要請していた。
だが、1999年、4年生のときのエレベーター設置工事での溶剤使用に体調を崩したことに始まり、教頭が薬品を扱う理科室に無理やり連れ込み薬品の匂いを嗅がせようとした「理科室事件」、事前連絡もなく、校庭の桜の木に殺虫剤散布した「農薬事件」や大量の薬品処理をした「貯水槽工事事件」などで、茂弘さんは極微量の化学物質にもアトピーなどを発症するようになる。だが公判では、これら事件に、教頭は「理科室に連れ込んだ事実はない」、校長は「工事に関する連絡は『緊急以外』と入江さんと話し合っている。これは緊急だ」と事実と責任を否認した。
一方、六年生のときの担任は、茂弘さんのため避けるべき教材(マジックペンなど)について、使用前の考慮がなかったこと、教頭は、殺虫剤使用に関し農薬の名前も成分も確認しなかったこと、校長も「具体的に何に気をつけるべきかわからなかった」と認めるなど、学校全体で、化学物質過敏症の子どもをいかに守るかの真剣な対策を取っていなかったことを露呈した。
次回公判は11月29日。
追記:2007年1月17日、新聞各紙にこの裁判が和解することが報じられました。以下、朝日新聞と読売新聞の記事です。
◆シックスクール2訴訟が和解へ(朝日)
保育園や学校の建材などに使われた化学物質で体調を崩す「シックスクール」問題をめぐり、堺市と大阪市を相手取った二つの訴訟が近く大阪地裁堺支部と同地裁でそれぞれ和解することが15日、わかった。堺市は原告の保育園児(当時)30人に和解金計1200万円を支払うほか、「今後はシックスクール対策に努める」と約束する。大阪市も男子高校生(18)に和解金を支払うなどの方向で最終調整している。
訴状によると、堺市を訴えた30人は、同市が02年3月に開園を許可した私立保育園(同市堺区)に同年春から通い始めたが、直後から微熱や下痢などの症状が出た。保護者は04年4月、「市は開園前の検査で空気中から国の指針値の約12倍のトルエンが検出されたことを知っていたのに対策を怠った」として、同市と園舎を建てた建設会社など2社を相手に計5450万円(5850万円に増額)の支払いを求めて提訴した。
和解は今月19日に成立する見込みで、堺市が園児側に和解金計1200万円を支払うことに加え、和解条項にシックスクール問題に対する取り組みに努める▽個々の子どもの事情に応じて施設の管理や運営をする――と約束する文言が盛り込まれるという。大阪地裁堺支部が昨年11月、双方に和解を勧告していた。
一方、大阪市相手の訴訟の原告は、同市立小・中学校に通っていた男子高校生の入江茂弘さん。入江さんは94年の新築住宅への入居後に「化学物質過敏症」を発症。学校側に対策を求めたものの実施されず、授業をほとんど受けられないまま03年春に卒業した。入江さんは同4月、シックスクールについて自治体の責任を問う全国で初めての訴訟を起こした。
大阪市は入江さんに和解金を支払うほか、行政として化学物質過敏症に関する理解が足りなかったことを認め、シックスクール問題について教職員に理解を深めさせることを約束するとみられる。大阪地裁が昨年秋に和解を提案していた。
〈シックスクール〉 保育園や学校の建材、内装材に含まれる接着剤成分「ホルムアルデヒド」や塗料に使われる「トルエン」などが空気中に放出され、頭痛、吐き気、めまいなどの症状を引き起こす。新築住宅入居時に発症することがある「シックハウス症候群」とほぼ同じ症状。校舎や園舎の新改築工事をきっかけに園児や児童らが発症するケースが多い。
◆大阪市と堺市、150~1200万円支払い(読売)
学校や保育園の建築資材に含まれる化学物質の影響で頭痛などの症状に悩まされたのは、自治体が適切な措置を怠ったためとして、通学・通園していた当時の生徒や園児が大阪、堺両市に損害賠償を求めた二つの「シックスクール訴訟」が近く、大阪地裁と同地裁堺支部でそれぞれ和解することがわかった。両市はそれぞれ150万~1200万円の和解金を支払い、対策などを講じる――などの内容で調整している。
大阪市訴訟の原告は、高校生の入江茂弘さん(18)。1994年、新築した自宅に入居後、シックハウス症候群と診断されたが、市立小、中学校では教室の増設などの対策が講じられなかったと主張。堺市訴訟の原告は市立保育園の園児だった30人で、2002年春の通園直後から下痢などの症状が出た。園児らは「市が園舎で国の指針を上回る化学物質が検出されたのに対策を怠った」としている。
大阪市は入江さんに対し、遺憾の意を示し、和解金150万円を支払い、校長や教職員にシックスクールに対する研修を行うとする内容で、24日にも和解が成立。堺市は和解条項に▽和解金1200万円を支払う▽「シックスクール問題に対する取り組みに努める」との文言を盛り込む方向。19日に和解が成立する。
(runより: 前記事の裁判を起こした例がこの記事です。やれば勝てるんですね(^^)