ボフスラフ・マルティヌー オラトリオ「ギルガメシュ」 永遠の生命を希求する人間の姿 | クラシック音楽と読書の日記 クリスタルウインド

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今日はチェコの作曲家ボフスラフ・マルティヌー(1890年12月8日 - 1959年8月28日)が1954年から1955年にかけて作曲したオラトリオ「ギルガメシュ」を聴きました。

 

古代メソポタピアの遺跡から発見された楔形文字により粘土板に刻み込まれた「ギルガメシュ叙事詩」は世界最古の文学作品と呼ばれています。その内容と内包されているテーマに共感したマルティヌーは叙事詩の英語版とそこからチェコ語に翻訳されたものをテキストに、朗読と四人のソロ、コーラスと管弦楽からなるオラトリオを作曲しました。

 

「『ギルガメシュ叙事詩』は『イシュタル』から33年後の作品であり、その間にマルティヌーはパリ移住、第2次大戦、米国移住を経験し、母親や多くの友人の死に向き合ってきた。生涯の黄昏時にさしかかっていたマルティヌーにはオリエント文明への関心もむろんあっただろうけれど、それよりはむしろ、この叙事詩に内包されている普遍的テーマである「永遠の生命を希求する」人間の姿に共感してこのオラトリオを作曲しているものと思われる。
(中略)
【「ギルガメシュ叙事詩」とは】
 紀元前数千年前の、古代オリエント最古のシュメール文明(現在のイラク周辺、チグリス・ユーフラテス川河口に栄えた文明)までその起源をさかのぼることのできる、確認しうる世界最古の文学作品のひとつである。作者不詳のこの「ギルガメシュ叙事詩」には「大洪水と箱舟」の話(第11の書版)など、旧約聖書をはじめ後世の文学作品に大きな影響を及ぼしたエピソードが数多く含まれている。シュメール文明時代もともと口述伝承だったものが楔形文字を使って断片的に記録されていたが、アッシリア人が政治上優位になったのち紀元前7世紀ごろにアッカド語(古代バビロニア語およびアッシリア語)で12編の叙事詩にまとめられていった。この「アッシリア(アッカド)版」はその後小アジア一帯に広まり、ヒッタイト語、フーリ語にも翻訳された。
(中略)
マルティヌーが使用したテクストはトンプソンの英訳版と、フェルディナント・プイマンによるチェコ語訳版である。プイマン版はいささか古典英語調の形式で書かれたトンプソン版「叙事詩」に比べかなりロマンティックに意訳しているが、マルティヌーにとって重要だったのはこの叙事詩が伝えてくる哲学的なメッセージをいかに汲み取り、どう音楽的に処理するかであって、原文に忠実になる必要は必ずしもなかったと思われる。」(マルチヌー:オラトリオ『ギルガメッシュ叙事詩』 より)

 

現代音楽に属する曲ですし、歌詞なども全く分からない状態ですので聴いて面白くなければすぐ止めれば良いや、程度の気持ち(笑)で聴き始めたのですが、これがなかなか聴き応えのある音楽だったのでしょう。一時間近くある大曲なのにほとんど一気に聴き通してしまったのですから。

 

現代音楽、と言っても不協和音が続いたり理解を超えた旋律やリズムが多用される音楽ではありません。部分的に新しさを感じられるところがあるにしろ全体を通して伝統的なクラシック音楽の枠から大きく外れるところはあまりない音楽。しかし、全曲を通してある種野蛮な、と言えるような泥臭いエネルギーと見事に洗練された美しさが混交しているような不思議な魅力が溢れかえっている曲でした。格調ある朗読により語られる物語、壮大なスケールを感じさせるオーケストラ、エネルギッシュな生命力と繊細で美しい抒情を奏でる四人のソリストと合唱。

 

これでこの曲の歌詩とその全訳があればもっと楽しめるのに。

それだけがちょっと残念でした。

 

「ボフスラフ・マルティヌー(Bohuslav Martinů [ˈboɦuslaf ˈmarcɪnuː] 、1890年12月8日 - 1959年8月28日)は、チェコ出身の作曲家。6曲の交響曲を始め、様々な楽器のための30曲近くもの協奏曲、11作のオペラをはじめ、あらゆる分野で作曲を行うなど大変な多作家であった。
(中略)
マルティヌーは、400作を残した大変に多作な作曲家で、その作品数は、20世紀の作曲家としてはヴィラ=ロボスに次ぎ、ミヨー、タンスマンがかろうじてこれに並ぶ。創作は、自己の作風を模索するように様々な実験的書法を試た1930年代までの第1期、ほぼ1940年代と一致するアメリカ滞在時期が第2期で、彼の創作活動の頂点にあたる。そして、ヨーロッパに戻ってからが第3期で、新古典的あるいは新印象主義的とも言われる作風で形式の枠にとらわれない自由な作品を創作した。
彼は、知人に頼まれると断れない性格だったといわれ、その作品の多くは委嘱作品であり、名技性を発露するための協奏曲が30曲近くも作曲されているのが際だっている。これに対し、20世紀の作曲家にとっては重要な分野である映画音楽は、創作第1期に5作を作曲しただけという点も多くの研究者の興味を惹いている。後年は望郷の念が作風に反映し、自分の名前から取った音名象徴や、愛聴したドヴォルザークの『レクイエム』からの「キリエ」などの引用が増えてくる。」(Wikipedia ボフスラフ・マルティヌー より)
 

 

Epic of Gilgamesh

『ギルガメシュ叙事詩』は古代メソポタピア文明発祥の文学作品。実在したとされる伝説の王ギルガメシュをめぐる壮大な内容で、これにもとづき1955年、マルティヌーは、初期バロック様式を用いて4人の独唱と語り、混声合唱とオケによるオラトリオを完成しています。
 筆頭に挙げられるビエロフラーヴェク盤は長らく入手難だったためカタログ復活が待たれていたものです。

マルティヌー:オラトリオ『ギルガメシュ叙事詩』 H.351
マルチェラ・マホトコヴァー(S)
イルジー・ザフラドニーチェク(T)
ヴァーツラフ・ジーデク(T)
カレル・プルーシャ(Bs)
プラハ・フィルハーモニック合唱団
プラハ交響楽団
イルジー・ビエロフラーヴェク(指揮)
録音:1976年4月 プラハ、市庁舎スメタナ・ホール(ステレオ)