カール・シューリヒト「未完成」 ジョン・カルショウのシューリヒト批判 録音と音楽 | クラシック音楽と読書の日記 クリスタルウインド

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今日はカール・シューリヒトとウイーンフィルによるシューベルトの「未完成」を聴きました。

 

デッカの名プロデューサーとして有名なジョン・カルショウ(ショルティとの「指輪」全曲スタジオ録音など数々の歴史的録音を手がけたプロデューサーです。)はその著書「レコードはまっすぐに―あるプロデューサーの回想」のなかでシューリヒトについて次のように書いています
「彼(シューリヒト)とは何年か前にパリで仕事をしたことがあったが、ウィーンではもう老衰していて、シューベルトの「未完成」交響曲の第1楽章を、すべてテンポの異なる11の解釈で演奏した。オーケストラがうんざりしたのは当然のことで、理事会は私に文句を言うだけでなく、チューリヒとロンドンに電報を打って、指揮者を充分に管理できない私が悪いのだと訴えた。この「未完成」をどうにか終えると...(後略)」
かなりきつい批判ですが、これは1956年のことですから、「老衰して」、プロデューサーもオーケストラもうんざりとさせたと言われた指揮者はこれからさらに10年以上も長生きしその間にも数多くの名演奏を遺したことになります。何だか不思議な気もしますね。

この時ジョン・カルショウ等を悩ませた録音と言うのが今日聴こうと思った「未完成」なのです。

 

 

 

この演奏、私はとても好きです。いかにもシューリヒトらしい素敵な「未完成」になっていると思います。

たぶんレコード会社のプロデューサーは、もちろん芸術に対する理解力も持たなければならないのでしょうが、それと同時に技術者という側面も強く持っていたのでは無いかと思います。レコードにしろ放送にしろ使うための演奏時間には制約があります。ましてスタジオで何回か収録したテープを部分的につなぎ合わせたりするようなことまで考えれば、やる度に大幅にテンポが変わるような演奏者はド素人か耄碌しているか、と言いたくなるのは分かるような気がします(笑) 同じ時代の少し新しいタイプの演奏家、例えばカラヤンやショルティならそんなことは当たり前のこととしてやったでしょう。(日本人でも山本直純さんや岩城宏之さんなどは学生時代から放送録音のアルバイトで稼いでいたようですから朝飯前だったと思います。その後の世代はもちろんですね。) しかし、シューリヒトにとってはやり直す度に同じテンポ、同じ表情で等というのは音楽では無い、位に考えていたかも知れません。(フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュが録音を嫌ったのと同様に。) このカルショウのコメントを読んで戦前と戦後の音楽に対する考え方の世代の違いのような物があるような気がしました。
(カルショウは「オーケストラがうんざりしたのは当然のこと」と書いていますが、オーケストラの半分はしつこくやり直させるプロデューサーにうんざりしていたのでは無いかと言う気も(笑))

 

と同時に、シューリヒトに対する評価も低かったのかな、とも。シューリヒトという人はフルトヴェングラーやクナッパーツブッシュより大分年上です。ワルターやピエール・モントゥーよりすこし下、ほぼ同年代の人。例えば同じようなレコーディングでフルトヴェングラーがアンサンブルを揃えるのに苦労したとして「老衰して」などとは言わないでしょう。クナッパーツブッシュに10回以上もやり直しをさせられたとも思えません。カルショウがピエール・モントゥーが移籍してくるのに対し彼との仕事が楽しみだと思った、と語っているのと比べシューリヒトに対する尊敬の念があまりに薄いことに驚きます。個人的な相性もあるのかも知れませんが、その時代のシューリヒトへの評価もあまり高くなかったのかなと思ったりしました。

 

50年以上も経った今私たちがシューリヒトの録音を喜んで聴いているのをカルショウが知ったらどう思うでしょうね(笑)

 

ちなみにこちらは同じ年のシューリヒトの映像です。(指揮しているシューリヒトの映像を初めて見ましたが、これは「老衰して」いる人の指揮じゃ無いですよね(笑))

 

 

 

シューベルト:交響曲第8番《未完成》/モーツァルト:交響曲第35番《ハフナー》、ブラームス:交響曲第2番

戦前から共演していたウィーン・フィルとの、DECCAレーベルでは唯一のステレオ録音である2曲と、1953年の有名なブラームス:交響曲第2番を贅沢にカップリング。ブラームスの第2番はモノラル時代のこの曲の代表盤のひとつと言っても良く、前年のブラームス:ピアノ協奏曲第2番やベートーヴェンの交響曲第1&2番に続く、DECCAレーベルではウィーン・フィルとの第4作にあたります。