2025年5月、妻は抗がん剤治療の所定の回数を終えました。様々な副作用は続きましたが抗がん剤の効果は出ているようで当初7~8㎝あった腫瘍は半分以下のサイズになっているとのことでした。それからしばらく検査などが続き7月の頭に手術ということに。
この頃父の様子はあまり大きな変化はなく私たちが行くと上機嫌で話してくれてはいました。ただ、以前と比べベッドから身体を起こすことが減っているのは少し気がかりではあったのです。そんな頃施設の職員から、最近父が食事を残すことが多くなったと告げられます。
「最近、食が進まないことが多く、一口か二口しか食べないことも増えています。できるだけ食べて貰えるように薦めたりはしているのですが、ここでは無理に食べさせることはしませんから…。栄養価の高いドリンクを毎食飲んでもらっているのですぐに衰弱するという事は無いと思いますけど。」
面会に行くと父は機嫌良く話してくれます。家のこと、家の庭の花のこと、家族の昔の思い出や父の子供の頃の話。私が帰り際に、ご飯美味しいかい? ちゃんと食べないとダメだよ、と言うと必ず父は言います。
「俺は出されたものは何でも食べている。嫌いな物は無いし残すのも嫌だからな。」
それからしばらくして。たしか6月の中頃だったと思います。施設長から電話がありました。
「昨日お父様が咳き込んで、痰が切れずにしばらく苦しんだんです。看護師がついて取りあえずおさまったのですが、この施設には痰を吸引する機械などはありませんし施設の主治医と相談したところこうした事がまたあるようだったら設備の整った病院に入院した方が良いのではと言うことなんです。」
しかし、そこで紹介された病院はうちからはかなり遠く、妻が手術を受けしばらく入院するとなると私一人で二つの病院を行き来するのはかなり難しくなりそうです。そうすると父のことは札幌市内でも私の所よりはその病院に少し近い弟に任せた方が良いのか…。私が逡巡していると、直ぐにということではないので検討してみてください、とその電話は終わったのでした。
妻の手術は7月3日。その前日に手稲渓仁会病院に入院しました。その入院手続きなどで待っている時に私の携帯電話が鳴りました。父の施設からでした。
「お父様がまた苦しんでいますので病院に搬送したいと思います。至急来ていただけませんか。」
困りました。私は、妻の手術、入院のために病院にいること、できるだけ早く行きますが直ぐには動けないことを伝えます。それではもう少し様子を見て後ほどまたご連絡します、と電話は終え、それから直ぐに弟に連絡。弟に状況を説明し…
妻の入院手続きを終え、一息ついてから施設に行くと弟も来ていました。施設長の話では先ほどの電話の直ぐ後父の具合は回復し落ち着いているとのこと。
「ただあまり食べなくなっているので体力が落ちているのは間違いありませんし、何時同じように苦しむかはまったく分からない状態です。ここには特別な設備もありませんから、看護師ができる範囲のことしかできません。設備の整った病院に移った方が安心だとは思います。」
「でも、そうすると、たぶんもうここには戻ってこられないでしょうね。」
「そう、なると思います、ね。」
「ここに入る時もお話ししましたが、父は一切の延命治療は受けないとずっと言っていました。私にはどのレベルの治療が延命治療に当たるのかよく分かっていないところも有るのですが、病院に行って色々管を繋がれて、という状態を父が喜ぶのかどうか、ちょっと考えてしまっているのです。」
私がそう言うと弟もちょっと考え込んでいるようです。
「ここに来て落ち着いてる様子だったし、これからあちこち行かせたりしたくない気もするしね。」
「そう言うことでしたら」施設長はにこりとしながら言いました。
「ここでは特別な治療はできませんし、ちょっと目を離した時に突然、と言ったこともあります。そのあたりご了解いただけるのでしたら私たちが一生懸命最後までお看取りさせていただきます。」
私も弟も異論はありませんでした。
「よろしくお願いします。」
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