私がドラッグストアで対応した事例をご紹介しています。同じようなケースはないかもしれませんが、参考にしていただければ幸いです。


【ケース5】
70歳代半ばと思われる男性のお客さまのご相談です。右手人指し指先端の痺れを訴えてのご来店でした。

実は今回のケースは、初期対応は化粧品担当で医薬品登録販売者の資格を持っている従業員が対応しました。この資格者は小林製薬の「ユービケア」(←実は「桂枝加苓朮附湯」という漢方薬)をご案内しましたが、「痺れ」ということで心配になったそうで私が引き継ぎました。
この方との会話のなかでわかったことは、①一ヶ月ほど前から②痺れが治るときもある③両方の掌は温かい(抹消の循環は良さそう/むしろ私の方が冷たかった)④持病での服薬はない⑤話し方に変なところはない⑤手に力が入らないことはない⑥両手の指は自在に動かせる⑦歩様もおかしなところはない

というような情報が得られました。

これらのことから脳梗塞というような中枢神経に問題がある状況ではなさそう。ならば、脳脊髄以外の末梢神経に不具合があると考えられます。

この方の掌は温かく抹消の循環が悪いとは考えにくく、可能性が高いのは痺れているのが利き手の人指し指ということから将棋の指し過ぎなどで右手の人指し指の神経を酷使したのか脛部のヘルニアでしょう。

「ユービケア」でも当たらすとも遠からずかもしれませんが、漢方薬は証をしっかり確認しないといけません。病名漢方といって漢方薬をあたかも西洋薬のように使うのはダメです。そこで別のアプローチが必要です。

何にしたと思います?それはこちらです。


 


【効能・効果】

次の諸症状の緩和

筋肉痛・関節痛(肩・腰・肘・膝痛、肩こり、五十肩など)、神経痛、手足のしびれ、眼精疲労(慢性的な目の疲れ及びそれに伴う目のかすみ・目の奥の痛み)

「ただし、これらの症状について、1カ月ほど使用しても改善がみられない場合は、医師又は薬剤師に相談すること。」



【成分】

・メコバラミン(活性型ビタミンB12)

・葉酸

・酢酸d-α-トコフェロール(天然型ビタミンE)

・フルスルチアミン塩酸塩(ビタミンB1誘導体)

・ピリドキシン塩酸塩(ビタミンB6)


ナボリンSは1回1錠毎食後に服用します。これはとても大事なことなので、お客さまにこの事をしっかりお伝えしました。


実はここまでは前段です。今回の投稿のメインは「ユービケア」の話なんです。


「ユービケア」は前述の通り「桂枝加苓朮附湯」という名前の漢方薬です。この名前から「桂枝湯」に「茯苓」、「朮」、「附子」か配合されていることがわかります。


「桂枝湯」と言えば「表寒虚証」の漢方薬です。風寒の邪は体表より身体を犯し、太陽経(たいようけい)の部位(=後頭部・項・背中などの背面)に寒気を伴った強張りや痛みといった自覚症状が現れます。この段階を太陽病と呼び、太陽病のうち自汗(=熱感を伴わない不快な汗)を表寒虚証といい、「桂枝湯」が適応します。


[桂枝]は[生姜]の辛温性に助けられて表位を温め、陽気を巡らすことで、風邪・寒邪を除きます。[芍薬]は陰液を補うとともに、[芍薬]の陰寒性と収斂作用は辛温解表薬による過度の発汗を抑えています。


つまり「桂枝湯」は補陽の[桂枝]と補陰の[芍薬]の組み合わせが核となり、[桂枝]は裏位の陽気を表へ流すことで表位を補うので、甘草・大棗の補気・補陰作用によって裏位の気を補い助けています。

この「桂枝湯」に「茯苓」、「朮」が加わることで、湿邪を取り除く作用を持ち、健脾に役立ちます。陽気は食物から作られるので、補気の基本は食欲・消化吸収の改善であり健脾作用のある生薬の配剤はまさにうってつけです。そして「附子」がさらに裏位の陽気を補っていると解釈できます。

私なりの「ユービケア」の使い道ですが、寒さで手がかじかんだ場合をイメージしていただけたらわかりやすいんじゃないかと思います。

今回のケースでは、このお客さまの手のひらは大変温かく、「ユービケア」は違うかなと思いました。

そこで西洋医学的なアプローチで望み「ナボリンS」をお勧めした次第です。

後で化粧品担当の医薬品登録販売者から「途中から接客を代わってもらってありがとうございました」と言われました。私は「いえいえ、またよろしくお願いします」と言いました。

さて今回の投稿では、難しい漢方医学用語が出てきたと思います。私も学びの最初の頃は用語の意味するところがわからず苦労しました。そこで今回は「表裏」について書きますね。


漢方の概念はそのほとんどが相対的であり、「表裏」がしっかり決まっているわけではありません。一般に皮膚や筋肉は「表」に相当し、内蔵は「裏」を表す場合が多いです。しかしその皮膚にも表裏があって、この場合は表皮が「表」で真皮が「裏」に相当するでしょう。そして内蔵の肺と腎を比較すると肺が「表」で腎が「裏」になります。


というわけで今回の投稿では、「表」は体表のことを表し、「裏」は身体の内部という意味合いで使っています。


お読みくださりありがとうございます。