酸棗仁湯(さんそうにんとう)という名前の漢方薬をご存じでしょうか。先日のことですが酸棗仁湯を販売する機会がありましたので、シェアしたいと思います。



【経緯】

    実は来店されたお客さま(40歳代女性)はご指名の医薬品がありました。それは救心製薬から出ている、「ノイ・ホスロール」という名前の医薬品でした。私は棚からこの「ノイ・ホスロール」を取ってお客さまにお渡ししました。通常はそれでお会計で終了となります。が、私はそれでは終わらせませんでした。どうもうちのお店の登録販売者に勧められたそうです。しかし、この「ノイ・ホスロール」が果たしてお客さまに相応しいのかの検討をすべきだと思ったからです。


    では一体このお客さまの主訴はなんだったのでしようか?ということでお客さまにお尋ねしたところ、「不眠」とのことでした。


    なるほど、「不眠」でしたか❗と心の声。最近、相談のなかに多い気がします。


    ということでまずは「ノイ・ホスロール」の中身を検討することにしました。



「ノイ・ホスロール」の構成生薬は次の通りになっています。

3包(1包2g)中、下記植物生薬の抽出乾燥エキス2,100mgを含みます。

成分分量
ブクリョウ6.0g
タイソウ4.0g
ケイヒ4.0g
カンゾウ2.0g

 

 


    なるほど、4つの生薬で構成されている生薬製剤ということがわかりました。


    不眠でこの生薬製剤はちと荷が重すぎるかなぁ、と思いました。確かに茯苓は養心安神薬ですがこれひとつではいささか弱いと思われました。茯苓の帰経は心・脾・肺・腎(金兌勝著 漢方処方解読マニュアルより)で、「心」・「脾」を補うので間違いではないとは思いますが。


 私は何も書いていない紙を持って五臓を書いて原因を説明しました。この紙はお客さまに渡してしまったので手元にはありませんが、不眠に関わる「臓」は「肝」、「心」、「脾」であることを説明したように記憶しています。


 どのようなことを説明したのかと言いますと、五臓の関係性からどうして不眠になるか説明しました。不眠はズバリ「心」が不安定であることから起こると言いました。そして五臓の母である「肝」が不安定であると、その影響を子たる「心」がまともに影響を受けてしまい不安定になり、不眠になると説明しました。


★「金兌勝著 漢方処方解読マニュアル」はこちら 

⬆️私に漢方薬の捉え方を教えてくれた画期的な書籍でした


 


 


    そこで私はここで小林製薬の「ナイトミン」を取り出しました。実はコレ、酸棗仁湯という漢方薬なんです。


   構成生薬は酸棗仁・茯苓・知母・甘草・川芎の5種類です。この構成生薬の役割は「金兌勝著 漢方処方解読マニュアル」によれば、次の通りです。


(引用します)

【構成解説】

    酸棗仁は心と胆の気を補う作用を持ち、甘草の補気作用が補佐をする。茯苓は安神作用をもち、知母は虚熱を冷ます。川芎は血中の気剤と呼ばれ血の滞りを除く作用をしめす。


【方意解説】

    不眠の改善薬である。不眠の原因は決して単純でなく、心熱、心血虚、心気虚、胆気虚、瘀血、痰飲など多彩である。酸棗仁湯は心気虚、胆気虚の治療方剤である。胆を補うことから、クヨクヨして決断ができない状態の改善にも用いられる。・・・(一部略)・・・酸棗仁湯は不眠の改善薬であると同時に、安神薬と見なせる。この神とは精神活動を意味する。神は心に蓄えられ、覚醒時には心の窮より飛び出し、他の四臓に働きかけ「怒・喜・思・悲・驚」の五情を引き起こす。神が心に戻り、活動が不活発になった状態が睡眠とみなされる。

(引用終わり)


    つまり不眠の原因は、「心熱、心血虚、心気虚、胆気虚、瘀血、痰飲」とされています。


    私は経験がまだまだ浅いですが、「胆気虚」の方に勧めて喜ばれたことがあります。どんな方だったかというと、この方は大勢を前に講演をする仕事をされていました。そして講演の前日は話の構成をかれこれ考えてしまい眠れなくなってしまうとのことでした。これは明らかにクヨクヨ考えてしまう、言い方を変えれば胆が据わらない「胆気虚」でした。効果は絶大で、凄く喜ばれました。


    今回来店されている方はお話を伺ったところ、心配事があるのだそうでした。心配事の中身は仕事のことだそうです。どうやったら仕事がうまく進むのかが凄く心配で眠れなくなるのだそうです。この事から原因としては、「胆気虚」・「心熱」・「心気虚」が想定されました。


    これらに対応する生薬が酸棗仁湯に配合されています。

「胆気虚」・・・酸棗仁

「心熱」・・・・知母

「心気虚」・・・酸棗仁

そして茯苓は安神作用および甘草の補気作用が「脾」を補い、そうすることによって「脾」が「心」を安定させます。


と、このような説明をしたところお客さまは「ナイトミン」をお買い上げになりました。


漢方薬は複合的に作用しますね。


ここで終わりにしても良いのですが、私が頼りにしている「高山宏世編著 腹証図解漢方常用処方解説(第56版)」の酸棗仁湯の方義を引用したいと思います。


(引用します)


方義

酸棗仁:甘酸平。鎮静作用。肝を治め、心血を生じ、肝血(肝陰)を養う。酸棗仁は炒れば催眠作用、生にて用いれば睡気をさますという。

川芎:辛温。鎮静及び血管拡張作用。肝鬱を散ず。酸棗仁を助けて肝を通じ、栄を調える。

甘草:甘平。緩和、補益調整作用。肝の急を緩めると共に、川芎の疏泄が急すぎるのを防ぐ。

知母:苦寒。清熱璃火の作用。虚労が極限に来ると陰を傷り、陽が亢じて火(熱)を発す。陽分が陰に行らなくなりねむれなくなるので、知母で陰水を充実させ、火を制す。

茯苓:甘平。利水、鎮静作用。陽水を利し、陰を平定すれば、魂は自然に鎮り、精神も安定する。


    肝と心とは母子関係にある。虚労、虚煩、眠るを得ずとは、肝血虚があると子臓たる心も血虚して精神不安定となる。肝血虚は虚熱を生じ易く、その虚火が子臓たる心を責める。また肝は魂の居であり、肝血虚すると魂は居処を失い、精神(魂)が不安動揺することなどによる。従って肝血を治め肝気を安定させ、虚熱を取ってやる必要がある。除弦細数は肝血不足と虚熱の病像を示している。


(引用終わり)


    書物によっては拡張高い表現を多用しているので、最初に勉強する本を誤ると漢方は難しいということになります。次にこの辺を簡単に解説して今回の投稿を終えることにします。